これの続き
亜美を撫で回す触手は、イカやタコ、イソギンチャクが持つものとは異質なものであった。あるところでは枝分れし、またあるところでは合流し一本に戻り、全身へ複雑に絡まっていた。亜美がいくら身を捩ろうが、悲鳴を食い殺し後ろへ前へ力を入れようが、蠢きながら粘液を塗る触手からは逃れられなかった。
いくら暴れても逃れられないことを悟ると、亜美は瞼をぎゅうと閉じ、吐き気と嫌悪を抑えこみながら大きく口を開けた。そして近くの触手へと力の限り噛みついた。ただ一つ残された物理的な抵抗だった。
それはあっさりと成功した。触手は蒟蒻ほどの弾力で歯を通し、噛みついた場所はリンゴをかじった後のように半月型に切れていた。と、亜美の口内で欠片が蠢き出したため、狂乱しながらすぐさま口から吐き出した。舌の上に粘液が残ったが、水で口をゆすぐことも出来なかった。
そこまでしてダメージを与えた触手なのに、欠けていたのは僅かな間だった。触手の別の部分から余剰分が分離し、亜美の肌を這ってゆく。そうして凹んだところへ辿りつくと、穴を埋めるように融合し元の形に復元してしまった。ダメージはなかったのだろう、ドロイドは「もっとかじっても良いのよ」と微笑みかけた。
その様に亜美はまた蛞蝓を連想した。この触手は幾万もの赤い蛞蝓が紐状に融合しているようなものなのだ。もし欠けたとしても、また切れたとしても、個々の部分はそれぞれ生きつづけ、自分へ張りつき、ぬるぬると拘束しつづけるのだ。
そして先程それに噛みつき、欠片を口に入れてしまったことに思い至る。なおかつそれが分泌した粘液が口内に残っていることに気付き、亜美はついに嘔吐した。痺れる胃液は口内を洗い流したが、体を汚した。しかしそれは直ぐ様触手が拭き取っていった。
今や亜美の全身が粘液で光っていた。触手は顔に触れることはなかったが、嘔吐のせいで口元からは涎が、そして目からは涙が流れていた。顔も、気分も最悪だった。体力も失なわれ、悲鳴を上げることにすら疲れていた。
それを、目の前の赤い女は笑って見ていた。
「どうして、どうしてそんなに楽しそうなの!」
亜美は激昂した。おとなしい彼女が怒りの声を上げ、そして今も息を荒げ、敵を睨みつけていた。その目には先程『自分を殺せ』と言ったとき以上の、強い意思の光があった。
ジャーマネンはさらに笑みを強くした。亜美へ顔を近づけ、紫色の舌で涙の跡を舐め取った。舌が離れると、粘液が糸を引いた。それは唾液ではなく、腐敗した食物が引く"糸"に見えた。舌の色と、ねちりとした音と、必要以上に粘つきながら崩れそうにやわい舌自体の感触のせいだった。
その舌が次は耳元へと近付いてゆく。そしてびじゅりという音とともに、生暖かいものが耳朶を舐めた。それだけではなく、ぐじ、ねじゅりとした音が耳の中までも冒してきた。粘る音が脳内に響く。もちろん退避しようとしたがどれだけ体をよじろうとも拘束された中では無駄だった。
鼓膜までを舐め抜いてようやく満足したのか、舌が耳から出ていった。指も届かないところまで粘液を塗りつけられ、頭の奥までぐじゅりとした残響音が残っているかのようだった。最悪の気分だった。
にも関わらず、ドロイドは耳元で囁いた。
「あなたの涙も、肌も、耳の中も……とっても美味しいです」
「……」
「さあ次は、あなたの口をいただきましょう」
身の毛がよだつ話だった。あの腐敗した舌が口内に入れられる。さっきの欠片以上のなにかをされる。亜美は口をぎりりと軋ませた。
「……殺してやる。そんなことをしたら、どんなことをしても、絶対にあなたを殺してやる!」
叫びながら、亜美は相手を視線で殺すつもりで睨みつけた。こんな直接的な言い回しで叫んだのは、初めてのことだった。知性派であるはずの彼女が、今、ただ殺してやりたいと、そう頭を塗り潰されていた。
なにを今更という態度でジャーマネンは笑う。が、亜美の瞳に宿る、黒く光がより一層強くなっているのを見て、内心では微笑んでいた。「もう少し」とジャーマネンは思った。
闇への勧誘ですからー。エロ、とは少し違ってしまった気がしないでもない。というかこれはこれでリョナになるんですかね。
次回は少し時間かかりそうです。目標は3/1か3/2。
- sui:ここで更新されているSSはどこで見れるか教えてください。ショートストーリーにはありませんでした。
- 管理人:調整中です。そのうち見れるようにします。
- 11-47:実に良いですね。キスを通じて亜美に芽生えた黒い心とジャーマネンさんが融合してし……というわけで、またしばらくROMります。
- 管理人:ありがとうございます。仕事が忙しくて更新止まってますが、続きは手元でちょこちょこ書いてますので……
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書いた日: 2011/02/25 21:23 カテゴリ:妄想