今日はクリスマス・イブ。
聖夜を目前に控え、市内のとある大遊園地は若い男女でごった返していた。
後に計上されたところでは、この時の来園者・従業員の総数は約八千人。
もし神が存在するのなら、彼は恐ろしく薄情だと言わざるを得ない。
自らの子が地に降り立ったと伝えられる記念日を、祝福する素振りさえ見せなかったのだから――
恋人達がたむろする遊園地ゲート前――そこに、青髪の美女が立った。
その妖艶な容姿、異様なまでに整った顔立ち、艶めかしい雰囲気――それは、否応もなく人目を引く。
そして彼女に視線を奪われた者は、この美女が内包する禍々しさのようなものを感じ取っただろう。
深紫色の瞳には、身も凍るような冷徹な色と――そして、母性にも似た慈愛が同居していた。
彼女の身を包むのは、清楚で上品な純白のドレス。
ウェディングドレスを連想させるような装束で、冬にもかかわらず肩を露出させている。
スカートの裾はふんわりと広がり、その足を完全に覆い隠していた。
「わっ、凄い美人……どこかのお姫様?」
「ほら……あれだ。クリスマスのアトラクションだろ、シンデレラとか」
「でも、あの人……なんか、怖くない?」
「うわ、見てるだけで鳥肌が……」
「……なんでだろう、寒気がするな」
その美貌、その格好――女はたたずんでいるだけで、周囲の注目を浴びている。
彼女の視線は、まるで値踏みをするように人並みをじっくり移動していった。
「ふふっ……」
口の端を歪め、艶やかな笑みを見せた美女――彼女の正体は、堕粘姫ジェシア・アスタロト。
この淫魔が人間界へと降り立った時、そこは阿鼻叫喚の餌場へと変わる。
その場に居合わせた者、その全てが犠牲者。
この地に詰め掛けた八千人もの男女、その誰一人として例外とはなりえない。
たった一人の淫魔がもたらす聖夜の狂宴が、今まさに始まろうとしていた――
「ふぁ〜……ったく、クリスマスなのにバイトかよ……」
俺は、本日二十四回目のため息を吐いていた。
恋人達の祭典、クリスマスという特別な日に遊園地でバイト。
入場ゲートの受け付けをやりながら、目の前を通り過ぎていく恋人達を眺めるのみ。
なんだか、涙が出そうなシチュエーションだ。
もしサンタクロースがいるのなら、こんな俺に何かご褒美でもくれないだろうか――
「ん……?」
そんなことを考えていた俺の目に飛び込んできたのは、身の毛がよだつほど美しい女性だった。
そう――身の毛がよだつ、そういう禍々しい表現がぴったりなのだ。
なぜだろうか、花のような、とか、目尻が下がるような、などといった言葉はそぐわない。
その女は異様なことに、峻烈な美しさと、胸が締め付けられるようなおぞましさを同居させていたのだ。
女性が着用していたのは、ウェディングドレスのような純白の異装。
このような季節、このような場には似つかわしくない服装だが――そんな装束より、彼女自身の雰囲気の方が異常。
年齢は、おそらく二十歳程度だろうか。
その髪色は、まるで透き通るようなブルー。
長さは腰まで届くほどで、海のような色彩をたたえながら広がっていた。
俺は、突然に空から降り立ったかのような美女に目を奪われてしまったのである。
「な、なんなんだ……あの人……」
女性は地面を滑るように進み、パーク前の道路から俺のいるゲートの方に歩み寄っていく。
その妖気にも似た存在感で、周囲の注目を受けないはずがない。
凡庸な恋人達の視線を集めながら、女性はゲートに歩み寄り――それを抜けて、園内に入っていた。
彼女が俺の前をふわりと通り抜けた時――なぜだか、とろけそうなほどに甘い匂いがした。
俺は呆然としながら、遠ざかっていく彼女の後ろ姿を眺めるのみ――
「い、いや……! ちょっと……!」
そこで俺は、ようやく重要なことに気付いた。
さっきの女性は、チケットを提示していないのだ。
それを黙って通したともなれば、まさに大目玉ものの事態である。
クリスマスに働かされた上、給料がパーなんてのは断じて御免だ。
俺はゲートから飛び出すと、ただちに後を追い掛け――背後から、彼女の肩をぐいと引っ張った。
「……ちょっと、あなた。チケットを買ってから――」
……!?
掌から伝わってくる異様な感覚に、俺は戦慄を覚えていた。
それはグミのようなゼリーのような、ぐにゃりとしたゼラチン質の感触。
ひんやりしているような、温もりがあるような――形容しがたい皮膚感覚。
人間の体ではありえない、粘体めいた奇妙な触感だったのだ。
「なんだ、これ……? え……?」
その刹那――彼女のドレスの裾が、ぶわりと翻った。
まるで、俺に中を見せるように――いや、スカートで包み込んでしまうかのように。
スカートの中が丸見えになるであろう、男の夢のようなシチュエーション。
しかし、俺が目にしたものは――彼女の下着や太腿などではなかった。
「ひっ……!」
――それは、もっと恐ろしく禍々しい何か。
――ジュルジュルにうねり、ドロドロに滴ったピンク色の粘液。
スカートの内膜は、ゲル状の蜜がたっぷりと滴った、まるで消化壁のような粘膜だった。
そんな表膜の中に、グチュグチュと蠢く大量のスライムがうねっていたのだ。
ドロドロに滴り、じゅるじゅると粘り着く粘液の渦。
まるで俺を誘うように、妖しくねちゃねちゃと糸を引き――
大量に、どっぷりと――
俺の体に、覆い被さってくるように――
「あ……! う、うぁぁぁぁぁぁぁぁ――ッ!!」
そして、俺の視界はぐちゅぐちゅと蠢くピンクの粘液に染まった。
頭からスカートに包み込まれ、粘液の妖しいうねりは俺の足先まで一気に呑み込み――
……じゅるり、ぐちゅぐちゅぐちゅ……
訳も分からないままスカートに覆い込まれた俺の全身を、未知の感覚が襲う。
それはまるで、生温かい泥沼に全身を沈ませてしまったかのような感触。
足先から頭のてっぺんまでをスライムがヌルヌルと流動し、グチュグチュと蠢き、ジュルジュルと揉みしだく。
どろり……とした感触が俺の全身を撫で回し、這い回り、蠢き尽くす。
じゅるるるるる……ぐっちゅぐっちゅ、ぐっちゅ……
「あ、あぅぅぅぅぅぅ……!」
あまりの心地よさに、体からたちまち力が抜けていった。
周囲はひたすらにピンクの粘液、いったい何がどうなったのかさっぱり分からない。
しかし、そんなことなどどうでもよくなるぐらい――粘液で体中が覆い込まれ、這い回られる感触は気持ちよかった。
ずちゅ、ぐちゅぐちゅぐちゅる……
じゅるじゅる、じゅるるるる……
「うぁ……きもちいい……」
それは、粘りとヌルヌル感にまみれた粘液愛撫そのもの。
さらに、とろけそうに甘い匂いが俺の脳髄を溶かしてくる。
スライムは体中を這い回り、じゅるじゅるとうねり、覆い包み――
ひんやりした感触と、そして異様な温もり――それは相反する感覚。
ぬちゅぬちゅと粘り着くような感触と、プルプルと弾力に満ちた感触――これも相反する感覚。
全身にスライムが貼り付き、じっくりと弄ばれているのがはっきりと分かる。
それは相反する感触を同時に浴びせられたような、えもいわれぬ心地よさだった。
ぬちゃ、ぬちゃ……
ぐちゅり、じゅるるるるるるり……
「あぅぅ……」
いつの間にか衣服の感覚は消え失せ、素肌で直接にスライムの流動を感じている。
その快感に股間が熱くなり、むくむくと勃起を始めるのが分かった。
すると――
ぐちゅ、じゅるじゅる……
「あぅぅ……!」
たちまち、固くなった肉棒にもスライムがまとわりついてきた。
全身に与えられているのと同じ粘液の感触が、ペニスにもどっぷりと与えられる。
――それは、女の感触。
――それは、肉の感触。
――それは、粘液の感触。
粘液は肉棒を覆い包み、じゅるじゅると蠢き、ぐちゅぐちゅと流動し、くちゅくちゅと締め付ける。
その刺激でピクピク震えるペニスを容赦なく覆い包み、粘液の膜が何重にもくるみ込んでくる。
じゅく、じゅるるるるる……
ぐちゅ、ぐっちゅ、ぐっちゅ……
「あ……はぁぁぁぁぁぁぁ……!」
思わず、上擦った喘ぎ声が漏れてしまう。
股間に視線をやり、俺はその光景に打ち震えた。
ぐちゅぐちゅに柔らかく、ねっとりと粘ついたスライムが、勃起したペニスに絡んでいる。
まるで包むように肉棒にまとわりつき、ヌルヌルと流動し、グチュグチュと蠢いているのがはっきりと分かる――
俺のペニスはピンク色の粘液に覆い包まれ、ドロドロに愛撫されていたのだ。
ぐちゅり……ぐちゅ、じゅるるるるるるる……
じゅく、じゅるじゅる……ぐちゅる。
「あ、あひぃぃ――!! はぅ、あがぁぁぁぁぁ……!!」
その悪魔の快感に悶え、俺は身をよじるしかなかった。
それはまるで、スライムが肉棒をねっとりと咀嚼しているような感触。
あまりにも狂おしく、そして後戻りのできない悦楽――
ぐちゅり、じゅくじゅくじゅく……ぐちゅ。
ぬちゃ、ぬちゅ、にゅるるるるるるる……
「あ、あぐぅ……!うぅぅぅぅぅぅぅぅ……!」
まるで生きたまま生殖器を溶かされているかのような快感に、俺はたちまち精を漏らしていた。
ドクドクと、粘っこい白濁液がスライムの中へと迸る――
それがスイッチになったかのように、粘液の流動はねちっこくなった。
……ねちゅ、うじゅうじゅうじゅ……!!
ぐちゅ、ぐちゅ、ぐちゅ……! じゅるるるるるるっ……!!
「ひぃ、ひぃぃぃぃぃ……! あぁぁぁ――!!」
それは、もはや恐怖の悲鳴にも近い。
ペニスにグチュグチュの蠢きが襲い掛かり、ねっとりと咀嚼されていく――
そんな快感に、耐えられるはずがなかった。
何度も何度も、俺は歓喜のまま射精を続け――それでも粘液は、股間を中心に全身へとまとわりついたまま。
俺の体中に取り付き、ぐちゅぐちゅと流動し続けている。
……ねちゅ、うじゅうじゅうじゅ……!!
ぐちゅ、ぐちゅ、ぐちゅ……! じゅるるるるるるっ……!!
その蠢きは粘執に、そして艶めかしくなる一方。
俺の体はスライムに何重にも包み込まれ、そして――何をされているか、はっきり分かった。
「あ、あぁぁぁぁぁぁ……あひぃぃぃ……!!」
――体が溶かされている!
気も狂いそうな快楽の中で、俺はそれを理解した。
うじゅるうじゅるとうねりながら、両手も両足も、腰も胴もスライムに覆い包まれ――
そしてじわじわと溶かされていき、粘液と同化させられしまうのだ。
自らの辿る避けられない運命を、俺ははっきりと悟ってしまった。
ぐちゅり……じゅるるるるるるるるるる……!!
ねちゅ、ぐちゅねちゅねちゅぬちゅ……じゅるるるっ!
「あぁぁぁぁぁぁ……!」
体の力がどんどん抜けていき、不思議な幸福感に支配されていく。
腕が、足が――溶かされている部分が、じんわりと温もりに満ちていく。
それはまるで、精を解き放つ最中のような放出感。
手や足、肩や腰、胸など、粘液に触れられている各部分で射精しているような感覚。
全身で味わう射精感は、狂おしく俺の身を焼いた。
ぐちゅり、ぐちゅり、ぐちゅり……!!
じゅく、じゅるるるるるる……グチュグチュ、ねちゅ。
にちゃ、にちゃり……ぐちゅぐちゅ、ぐちゅり……!!
ここはおそらく、あの美女のスカートの中。いや、体内――?
俺よりも背丈の低い彼女の中で、俺は大の字になって貪られている――
何がどうなっているのか分からない、物理法則にも反した状態。
しかし、そんなことはどうでもいい。
俺は、あの美女に溶かされ――そして、一つにしてもらえるのだ。
べちゅ……くちゅくちゅ……じゅるっ!!
ぐちぃ……じゅくじゅくじゅく……クチュ、クチュクチュ……!
ぐちっ、ぐちっ、ぐちっ……! くちゅくちゅ、ぐちゅぐちゅぐちゅ……!
異様な咀嚼音も、なぜだか子守歌のように聞こえる。
俺を包むスライムが蠕動し、全身をグチュグチュに揉み溶かそうとしているのが分かる。
特にペニスは念入りに覆い込まれ、ジュルジュルと揉み洗いのような刺激を受け――
「あぁぁぁぁぁ……」
それに応じて、ビュクビュクと精液を迸らせてしまう。
完全に溶かす前に、全ての精液を搾り取ってしまう――そんな彼女の意志が伝わってきた。
そして精を全て搾り取られた後、狂おしい快感とともに溶かされ尽くすのだ。
じゅくじゅくじゅく……! ぐちゅ、ぐちゅぐちゅぐちゅ……!
ぐっちゅ、ぐっちゅ、じゅるるるるるる……!!
くちゅ、くちゅり……! じゅっくじゅっくじゅっく……ぐちゅ……!!
「あひぃぃぃぃぃ……」
軟体の感触にペニスが揉みしだかれ、ドクドクと精液を漏らしてしまい、さらに揉みしだかれ――
くちゅくちゅと亀頭を締め付けられ、その感触に俺は身をよじる。
ぬるぬると流動し、ペニスを中心に粘液が渦を巻き――全身が痺れるような快感に、たっぷりと精液が漏れ出す。
じゅくじゅくと締め付けを受け、ざわざわと震える感触を与えられ――
変幻自在な感触は、俺のペニスから精液を残らず抜き取るためのもの。
「あ、あ、あぁぁ……! あぁぁぁぁぁぁぁぁ――!!」
俺はその刺激に素直に応え、出せるだけの精液を全て搾り取られていた――
……ぐちゅ。
……じゅくじゅくじゅく。
ぐち、じゅく、ぐちゅり……! じゅく、じゅるるるるるるるるるる!!
「ひぁ……! あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……!!」
精液を搾り終えたスライムは、いよいよ俺の体を溶かしてきた。
腕も足も股間も腹も胸も肩も背中も頭も、全てを生温く覆い包んで――
それは、全身で味わう射精感そのもの。
放出、恍惚、解放、陶酔――その全てが一体になった狂おしい悦楽。
生きたまま溶解されるという自分の運命を悟りながら、俺は全身で悦びを表現していた。
肉体のみならず、心まで溶かされていくのが分かる――
じゅく、ぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅ……
じゅるり、ドロドロ……ぐちゅっ。
「ひぁ……きもちいぃ……」
粘液が絡み付き、まとわりつき、溶かされる――
驚くほどの恍惚を伴う感覚――それは、解放感といっても良かった。
窮屈な肉体から精神が溶かし出され、悦びに満ちたスライムの中に流れ込む――
それは、俺の錯覚なのだろうか。
いや――
ぐちゅり、じゅるるるるる……ぐっちゅ、ぐっちゅ、ぐちゅ……
くちゅ……ねちゅねちゅねちゅ……びちゃ、びちゃり……
全身を激しく貪り、そして蝕んでいくスライム。
温かく、まるで女の中でとろけていくかのよう――ぐちゅ。
そのぐちゅぐちゅとした蠢きは、まるで消化の蠕動のぐちゅぐちゅ、じゅるじゅる……
じゅるる……れは徐々に激しくなり、ペニスにもねっとりとグチュ、うじゅる……じゅるり。
もはや全身がとろけていくのを止めようもぐちゅり……じゅく、じゅく、じゅるるるるるるる……っ。
べちゃ、ぐちゅぐちゅ……どろり、微塵の容赦もなく、俺は悶えグチュグチュグチュ、じゅるり……
ぐちゅ、ぐちゅ、じゅるるるるロドロに、生きたまま溶解されジュルル……ぐっちゅ、ぐっちゅ……
それは悦びに満ち、俺は歓喜くっちゅ、くっちゅ、ぐちゅり……じゅる、じゅるるるる……
俺の体は――じゅるり、ぐっちゅ、ぐっちゅ、彼女と一つ……くちゅ、くちゅ……
俺、は――ぐちゅ、べちゅべちゅ……どろ、どろり……ぐちゅ、ぐちゅ……
お――じゅくっ、じゅくっ、じゅるり……ぐちゅぐちゅぐちゅ……
うじゅ、うじゅうじゅ……ぐちゅ、ぐちゅり。
グチュグチュ……じゅる、じゅるるる。
ぐちゅ、ぐちゅ、ぐちゅ……
……じゅるり。
「なんだ、どうした……?」
「無銭入場らしい。今、ゲートの受付が追っかけてっただろ」
「女一人に、別に三人で出なくても……」
ゲート間近の詰め所から、要請を受けて出動した三人の若い園内警備員――彼らは、信じられない瞬間を目撃することとなった。
チケットを買わずに入場した、異常な雰囲気と異様な格好の美女。
それをとがめようとして、バイトのゲート係員が詰め寄った次の瞬間――
彼は、ふわりと広がったスカートの中へとくるみ込まれてしまったのだ。
しかし――そこまでは、不可解ではあるが不可思議ではなかった。
「え……!?」
「な、なんだ……?」
警備員達が本当に目を疑ったのは、その後の展開だった。
人間一人をすっぽり包み、膨れ上がった美女のスカート。
その膨らみがアメーバのように蠢き、ぐっちゅぐっちゅと粘着的な音が響く。
不気味で忌まわしい、ひどく不可解な粘音――
まるでスカート自体が別の生き物で、何かを咀嚼しているかのように
びちゃびちゃと、ピンク色の粘液がスカートの中から地面へ垂れた。
ねっとりと、無数の糸を引きながら――
その粘液は、美女の足元でピンクの池を形作っていく。
異様なほど甘ったるい匂いが、つん……と周囲に立ち込め始めた。
グチュグチュ……じゅる、じゅるるる。
ぐちゅ、ぐちゅ、ぐちゅ……
……じゅるり。
「ちょっと待てよ、おい……」
「え……? ど、どうなってんだ?」
そして――ほんの数秒で、膨らんでいたスカートの中身がむにゅむにゅと小さくなっていった。
まるで、何かの手品のように――
台の上に寝かされたアシスタントが、布を被せただけで消失してしまうイリュージョンのように――
覆いくるまれていた男は消失し、スカートはふわりと何の変哲もない状態に戻ってしまったのである。
「……」
そして、そこには何事もなかったかのごとく美女がたたずんでいた。
ただ、スカートから垂れた粘液が足元の地面を汚し、ねっとりと糸を引いているのが異様。
スカートから粘液を滴らせた美女の姿は、とても禍々しく――そして、ぞっとするほどに魅惑的だった。
「ねぇ……何、あれ?」
「なんだ? 何かのアトラクションか?」
涼やかにたたずむ美女と、その前で立ちすくむ三人の警備員――
その周りで、物見高いカップル達は足を止める。
若い警備員達と、そして無数の男女――その姿を、女はゆっくりと見回した。
「……」
そして警備員の一人に視線を止めると、すたすたと歩を進め始める。
「おい、止まれ! 何を……!」
警備員は、慌てて腰のホルダーから警棒を抜いた。
それに怯む様子もなく、むしろ薄ら笑いすら浮かべて歩み寄ってくる女性――
「う、うわっ……!」
警備員の眼前に達しても女性は足を止めず、そのまま二人の体は衝突してしまう。
そして――次の瞬間、女の体はぶちゅりと弾けてしまった。
まるで、粘液をたっぷり詰めた水風船を、壁に叩き付けたのように――
ぐじゅる……
じゅるじゅるじゅる……
女の肉体はドレスごとスライム状に変質し、そしてぶつかられた警備員にどっぷりと覆いかぶさってきた。
「あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁ……!!」
そのまま彼はなすすべもなく、大量の粘液に絡み取られてしまう。
まるでアメーバに捕食される微生物のように、体を包み込まれ、ねっとりと食らいつかれ――
「そ、そんな……」
「な、何なんだ……?」
残る警備員二人は、同僚の無惨な有様を呆然と眺めるしかなかった。
まるでとりもちのように、同僚の体にピンクのスライムが絡み付いているのだ。
彼は必死でもがいているものの、スライムはじわじわと取り付く面積を広げていく。
みるみるうちに彼の全身は覆い込まれ、頭から足先まで隙間なく包み込まれてしまった。
ぐちゅ、ぐちゅ、ぐちゅり……
うじゅうじゅ、じゅるるるるるるるるる……
「あひぃ――! あ、ああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
悲痛な男の悲鳴が、周囲へと響く。
彼は立ったままの姿勢で、激しく身をよじり――そして、バランスを失って路上に倒れてしまった。
べちゃりと地面に転がったのは、もはや人型をしたスライムの塊。
その濃度は濃くなっていき、中に包まれている警備員の姿は見えなくなった。
人の形をした粘液が、べちゃべちゃと辺りに雫を撒き散らしながら悶え狂う。
ぐちぃ……ぐっちゅ、ぐっちゅ……!
じゅるるるるるるる……ぐちゅ……!
「あぐぅ……! はぅぅ……! あっ、あぁぁぁぁぁぁぁ――ッ!!」
ぐちゅぐちゅと蠢くスライムの中で、男は悲痛な叫びを上げ続けた。
それは苦痛ではなく、快楽によるもの――その場の何人かは、それを察することができた。
そして、誰も動けない。ここから逃げなければと――誰もが思いながら、足が動かない。
粘液の蠢きは徐々に執拗さを増し、中の男をいたぶるように激しくなっていく。
ねっとりと全身を流動し、這い回り、揉みしだき、締め付け、くすぐり、擦り、舐め回し、吸い付き――
「あ、あがぁぁぁぁぁぁぁ……! はぅ、うあぁぁぁぁ……!!」
男は無惨にも、スライムに取り付かれたままよがり狂うしかなかった。
何度も何度も射精し、粘り着くスライムの中へと精液が注がれ続ける。
ぐっちゅ、ぐっちゅ、ぐっちゅ……!!
じゅく……! じゅるるるるるるるる……!!
べちゅ、べちゅ、ぐちゅちゅ……! じゅく、じゅく……ぐちゅる……!!
「あひぃ……! ひぃぃぃぃぃぃぃぃ――ッ!!」
狂おしい快楽が、男に嬌声を上げさせ続ける。
それは、まさに捕食。
巨大なアメーバが人間に取り付き、じゅるじゅると溶かしているのだ。
しかし、その光景は――なぜか性行為を連想させるような、淫猥なものだった。
それを呆然と眺めている男の大半は股間を勃たせ、女の大半は股間を濡らしている。
まるで男女が絡み合っているような、生殖という行為を連想させるような――そんな、淫らな情景。
群衆の中の誰かが、ごくりと唾を呑み込んだ。
ぐちゅり、ぐちゅり、じゅるるるるるるる……!!
ぐちゅぐちゅ、ぐちゅっ……!
じゅく、じゅるるるるる……ぐちゅ……!
もはやスライムは人型でさえなくなり、ピンク色の繭状態。
その中で、男は全身をじっくりと貪られていった。
「あ……ひぃ……」
もがく男の動きは徐々に小さくなり、その悲鳴も掠れ果てていき――
それと比例するように、粘液の蠢きも段々と収まっていく。
散々に精液を搾り取られ、全身をむしゃぶられ尽くし――そして、じゅるじゅると包み溶かされているのだ。
周囲の男女は、性欲にも似た感情をくすぐられながら、呆然とそれを見ているしかなかった。
じゅく、じゅく、うじゅるるる……
ぐちゅ、ぐちゅ、ぐっちゅぐっちゅ……
……ぐちゅり。
ひときわ粘り気のある蠢きを最後に――スライムの繭は、徐々に小さくなり始めた。
まるで空気が抜けていくように、その塊はしゅるしゅると縮んでいく。
人間一人を呑み込んだとは思えない、自動車のタイヤほどのサイズ。
そのままスライムの塊は、とぷん……と地面に沈んでしまった。
「……?」
「な、なんだ……?」
人々の注視する中でスライムの塊は消え失せ、アスファルトの地面に残されたのはピンク色の水たまり。
大きさは、ちょうど座布団ほどだろうか。
その表面は静まり返り、不気味な静寂を醸し出している。
目の前で次々と起きる異常現象に、この場の誰もが呆然と立ち尽くすのみだった。
甘ったるい匂いはすっかり周囲に立ち込め、人々の鼻孔を生温く刺激している。
「な、なんだよ、これ……夢、か……?」
額の汗を拭いながら、その水たまりへと近付いていく警備員の一人。
すぐ側で立ち止まり、水たまりを覗き込もうとした時――その水面からしゅるりと触手のようなものが伸び、彼の足首へと絡み付いた。
「ひ……ひぃっ!!」
それは――よく見れば、人間の腕の形。
ピンクの粘液で形作られた腕が水たまりから這い出し、警備員の足首を掴んだのである。
「ひぃっ……! あっ……! た、助けて……!!」
そんな叫びも虚しく、彼はあっという間に禍々しい水たまりの中へと引き込まれてしまう。
とぷん……と、底なし沼に沈み込むように、彼の体はピンクの水たまりへと消えていった。
ぐぷ、ごぽごぽ……
ぐぷっ、ごぽっ、ごぷごぷっ……!
水たまりの表面が泡立ち、ぶくぶくと大きな泡が溢れる。
その表面は揺れ、渦を巻き――飛沫が、びしゃびしゃと飛び散った。
群衆が息を呑んで見据える前で――水たまりの表面が、淫らに蠢き始める。
ぐちゅ……
ぐっちゅ、ぐっちゅ……
じゅるじゅる、ぐちゅぐちゅべちゅべちゅじゅるるるるるるぐっちゅぐっちゅじゅるるるる……!
うじゅるうじゅるぐちゅぐちゅじゅるるるずちゅずちゅぐにゅじゅるるるるぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅ……!!
「あ……! ひぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ピンク色の水たまりから響いたのは、ねちっこい咀嚼音と悲痛な叫び声。
いったい、中で彼がどんな目に遭っているのか――この場を取り巻く大多数は、想像すら放棄していた。
男性器を勃たせ、女性器を濡らし、目の前の出来事を呆然と眺めるのみ。
恐怖と戸惑い、怯え――そして、羨望といった感情が場を支配する。
そう、異様なことに、粘状生物の餌食となっている男を羨む雰囲気さえあったのだ。
あんな目にあってみたい、ああいう風にされてみたいと――多くの男女は、無自覚ながらそう思っていたのである。
じゅるり、じゅるるるるるるるるる……!
ぐちゅ、ぐちゅ、ぐちゅり……
……じゅるるるる。
激しく乱れていた水たまりの表面は、みるみる静まり返ってしまう。
あの警備員は、もはやこの世のどこにもいなくなったと――場の全員が確信していた。
奇妙な咀嚼音も、男の悲鳴も、もはや聞こえない。
男性三人をその中に呑み込み、ピンクの粘液は静かに路面へ広がるのみ。
「あ……」
「うううう……」
もはや、その水たまりに近寄る者も――それどころか、動く者すらいなかった。
その禍々しい水たまりの表面と同じように、静まり返る周囲――
「ふふ……」
不意に、艶やかな女の笑い声が辺りに響いた。
水たまりの表面が、ゆっくりと盛り上がり――そして、みるみる女の形をなしていく。
整った顔付きに、腰まである長い青髪――それは、最初にこの場に現れた美女の上半身。
その身は全裸で、肉体はピンク色のスライムで構成されていた。
腕や髪から、じゅるじゅると粘液が垂れ落ちて糸を引く。
「ふふふ……あははははははは……」
その腰から下は、ぐちゅぐちゅとうねった粘液の渦。
全身からピンクの粘液を滴らせ、美しくも禍々しい妖魔はせせら笑う。
けたたましい笑い声は、徐々に大きくなり――そして、彼女が下半身を埋める水たまりもじわじわと広がっていった。
その面積は徐々に大きくなり、いつしか池のように――その数秒後には、沼のように広がっていく。
「あはははは……っ! ふふ、あははははははははははははははははははは!!」
艶やかな笑顔と共に、周囲に響き渡る大哄笑。
その足元から広がるスライムの池は一気に周囲へと侵食し、アスファルトをピンクに染めた。
その量はもはや、周囲の人々の足を絡め取るほど。
地面にはどっぷりと粘液が溢れ、まるで小規模な洪水のような状態になってしまったのだ。
「う、うわぁぁ……!」
「な、なんだこれ……!? ひぃぃぃ……!!」
たちまちゲート前の大通りは、地獄絵図と化してしまった。
悲鳴が広場のあちこちで響き渡り、人々はパニック状態に陥ってしまう。
いや――その異常は、もはや大通りだけに留まらなかった。
大量のスライムは大通り一帯を侵食し――そして、園内全域にまで広がりつつあったのだ。
「ふふ、あはははははははははは……!!」
自らの色に染まっていく広場を――
慌てふためき、右往左往する人々を――
周囲の地面を満たしていくピンクの粘液を――
そんな惨状を眺め、女淫魔は狂ったように哄笑していた。
クリスマスの遊園地は、瞬く間に堕粘姫ジェシア・アスタロトの餌場と化してしまったのである。
高校二年生の長野健太は、彼女の早苗と一緒にこの遊園地へと遊びに来ていた。
ジェットコースター、お化け屋敷――ひとしきり遊んだ後、フードコートで一休み。
早苗にテーブルを確保しておいてもらい、健太はハンバーガー屋の列に並んで順番待ち。
そしてようやく自分の番が回ってきた時――周囲に、とてつもない異変が起きたのだった。
じゅるり……
「ん、なんだ……?」
健太が一歩足を進めると、ぐちゅりという異様な感触が伝わってくる。
何かを踏んづけたのかと思い、足元を見ると――ピンク色の粘液のようなものが、じんわりと染み出ていたのだ。
それも一箇所だけじゃない。彼の周囲どころか、見渡す限りあちこちに――
それはゆっくりと周囲に広がり、辺りを侵食し始めたのである。
みるみるうちに、一帯の地面はピンクの粘液をぶち撒けたかのようになってしまった。
しかも、その粘液には異様に甘ったるい匂いが伴っているのだ。
「何だ、これ……!? 変な液体が漏れてきてるぞ――?」
足を上げると、靴裏と地面の間でにちゃぁ……と糸を引く。
水道管の破裂――ではないだろう。このピンクの液体は明らかに水ではない。
粘性が異様に高く、まるでスライムのようだ。
いったい、何事なのか――健太がそう考えているうちに、水かさはどんどん増してきた。
靴を濡らす程度だったのが、脛のあたりまで達し、ついには膝まで呑み込まれ――
ぐちゅっ……ごぼっ、ごぼっ。
ぬちゅぬちゅ、じゅるるるり……
「わっ、なんだこれ……!?」
「なんだよ、おい! 洪水か?」
「ねぇ、何なの? この気持ち悪い液体!?」
足元を満たす異様な粘液に、周囲のカップル達はたちまち騒然となり始めた。
膝までスライム状の液体に浸かり、右往左往している人の群れ――
健太は真っ先に、テーブルの方で待っている恋人のことを考えた。
「さ、早苗……」
慌てて足を動かそうとするも、その液体は予想以上に粘ついてくる。
粘液は膝の辺りまでねっとりと絡み、走るどころか歩くことさえつらい状況だ。
それでも、健太は足を動かして粘液の中を突き進む――
「ふふ……」
「え……?」
その時、奇妙な笑い声が聞こえた気がした。
周囲の男女は大混乱に陥っており、笑っている者などどこにもいない。
いったい、誰が――
「う、うわぁぁぁぁぁぁ……!!」
健太が周囲を見回した次の瞬間、一人の男の悲鳴が響き渡った。
スライムに足を取られ、自動販売機前で尻餅をついていた大学生ほどの青年。
彼の眼前でピンクの粘液がゆっくりと盛り上がり、ドロドロと流動しながら、みるみる女性の姿を成したのだ。
腰を抜かす青年の前に立ったのは、スライムで形作られた美女の姿。
その肉体は綺麗なピンク色で透き通り、そして妖艶な笑みを浮かべている。
全身からはだらだらと粘液が滴り、膝から下は地面に満ちたスライムと同化していた。
「ひぃっ……うぁぁぁぁッ!!」
悲鳴を上げる青年に、粘液を滴らせながらゆっくりとにじり寄る粘体の女性。
広げた両腕の間に、ぬちゃぁ……と粘液の糸が伝う。
「あ、あ、あぁぁぁ……」
そのまま粘状の女は、怯え竦む青年に迫り――
その両腕の中央に男を捉え、そのまま強引に抱き付いていた。
いや――絡み付く、という表現が正しいかもしれない。
「や、やめろぉ……! 離せぇ……!」
「ふふっ……」
どろりと女性は液状化しながら、抗う青年と絡み合い、その身を抱きすくめてしまう。
彼が身をよじるたびに、粘液がぐちゅぐちゅと周囲に飛び散っていた。
「は、はなせ……ひぃぃぃ……」
スライムまみれの抱擁に、青年は全身を包み込まれてしまい――
「うぁ……! あ、あ、あ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……!」
そして、その叫び声の質が変わった。
恐怖に満ちた悲鳴には、明らかに別の色が混ざっていたのだ。
青年の衣服はしゅわしゅわと溶けていき、その素肌はみっちりとスライムの膜に覆われていく。
「ふふふ……」
女性の上半身もまだ形状を保ったままで、それは粘液を用いた抱擁にも見えた。
「あぁ、きもちぃぃ……」
いつしか青年は緩んだ表情を浮かべており、その股間には勃起したモノが見える。
大きくなったペニスがスライムの中でひくひくと震え――そして、びゅるるるるっ……と白濁が溢れ出た。
青年が粘体女に何をされているのかは、呆然とその様子を眺める健太にも明白だった――
「う、うわぁぁぁぁ!!」
「ば、バケモノだぁ……!!」
衆人環視の中で、一人の青年が犠牲となり――そして、たちまちパニックが巻き起こった。
一面に広がる粘液の池をびちゃびちゃと踏みしめながら、右に左にと逃げ惑う男女達。
「うわ、こっちも……!」
「ひぃ、来るなぁ……!!」
その逃げ道を塞ぐように、あちらにも、こちらにも――粘体の女性が次々にせり上がってきた。
ピンク色の半透明な肉体、そして全身から滴らせた粘液。
おぞましさと艶めかしさが同居した、粘体質の美女達――
「ふふ……」
「ふふふふっ……」
「あははは……」
彼女達は笑い声を上げながら、逃げ惑う男女に襲い掛かり、抱きすくめ――
そしてスライムで包み込み、次々と取り込んでいくのである。
たちまち健太の周囲は阿鼻叫喚に包まれ、パニックは頂点に達していた。
あちこちで粘体女に抱き付かれ、男も女も関係なく犠牲になっていく。
喜びに溢れているはずの遊園地は、そんな修羅場と化してしまったのだ。
「くそっ……! バケモノがぁ!!」
ガラの悪そうな男は、売店の隅にあったモップを手にし――
そして、両手を広げながら迫ってくる粘体女へと振り落としていた。
「ふふ……」
「え……?」
その一撃は右肩に当たり、ぐにょり……と突き抜けて左脇から抜けてしまう。
粘状の体に、そんなものは通用しないのだ。
粘体女は艶めかしい笑みを浮かべ、男へと手を差し伸べてきた。
「ひっ……!」
モップを投げ捨て、逃げようとした男――その顔面を、しゅるりと伸びた粘状女の手が鷲掴みにする。
「ひぃぃ……! やめろ、離せぇ……!」
そのまま強引に男を引き摺り寄せていく粘状女――その両乳房の谷間で、ぐちゅりと口腔のような器官が開いた。
まるで花びらのような、不気味な生物の口腔のような器官。
中ではねっとりと粘液の糸を引き、早く何かを咥え込みたいといった風にぐちゅぐちゅと蠢いている。
ごぽっ、ごぽっ……とピンクの粘液が溢れ出す様子は、まるで涎を垂らしているようだった。
「ひぃ……ひぃぃぃ……」
「ふふっ……」
抗う男を引き寄せ――粘状女は、そのまま彼の顔を胸の口腔へと突っ込ませた。
ぐにゅり……と男の顔面は女の胸に埋まり、そしてずぶずぶ……と沈んでいく。
「ひゃあぁぁ……! んぐ、むぐぐぐ……!!」
頭部を粘状女の胸に埋められ、じたばたと手足をバタつかせてもがく男。
それを咥え込んでいる女の胴が妖しく蠕動し、じゅるじゅると蠢き始めた。
じゅるじゅる、じゅる……!
ぐちゅ、ぐちゅぐちゅぐちゅ……!
「あひぃ……! いぃぃぃぃ……」
妖しい咀嚼音が響き、もがく男の動きは徐々に緩くなっていく。
粘体の女は、その体全体で男を食べていた。
頭から食らいつき、胸に開いた口でむしゃぶりつき――
「ふふふ……」
そして抵抗力を失った男の体を、ずるずる、ずるずる……と引き込んでいく。
頭から肩まで咥え込み、さらに胸、腹、腰、太腿――そして両足。
ちゅるり……と、男の体は粘状女の中へと消えてしまった。
あの女の華奢な体の中に、大柄の男が丸ごと呑み込まれてしまったのである。
その異様すぎる光景を目の当たりにし、健太は戦慄していた。
「くっ、早苗ちゃん……!」
そんな様子を眺めている場合ではない――健太は、一刻も早く恋人の元に向かおうとした。
しかし足には粘液が絡み付き、否応にも足を鈍らせる。
「うわっ!」
「ひっ……来るなぁ!」
「きゃぁぁぁぁー!!」
あちこちで粘液の女体がせり上がり、男女の区別なく襲い掛かっているようだ。
そんな混乱の中、健太はなんとか恋人が待っているはずのテーブルまで戻ったが――
「さ、早苗……ちゃん……」
「あぁ……ン。はぅ……あ、あああぁぁぁぁぁぁ……!!」
しかし、すでに手遅れだった。
早苗の体は数体の粘液女に絡み付かれ、艶めかしい愛撫を受けていたのだ。
粘液の手がヌルヌルと白い裸体に這い回り、スライムが膜状に裸身を包む――
その粘体の表面はぞわぞわと脈打ち、覆い包んだ早苗の肉体にこの上もない快楽を与えていた。
「ふふっ……」
「あははは……」
そんな風に早苗を弄びながら、粘状女達は艶めかしく笑う。
「そ、そんな……」
「あぁぁぁ……ん、んん……ふぁ、あぁぁぁぁぁぁ……!」
早苗はすでに理性を失ってしまったらしく、与えられる快感のまま甘い声を漏らすのみ。
目の前に立ち尽くす恋人――健太の姿も、すでに見えなくなってしまっていた。
「さ、さな……うぁっ!」
そして、健太の周囲にも粘液の女体は迫りつつあった。
それも複数、前方と左右から――合わせて三体。
脳を溶かすほどに甘ったるい匂いが、健太の鼻孔に押し寄せてくる。
恋人を救えなかった脱力感から、彼はその場から逃げることもできなかった。
もう、どうでもいい――そんな諦めのような思いさえ抱いてしまう。
「う、うぁぁぁ……」
たちまち健太は、三方向から囲まれるように抱きすくめられてしまった。
二体は左右から健太の首に手を回して身を寄せ、一体は正面から抱擁してきたのだ。
複数の粘状女にサンドイッチにされ、彼はたちまち表情を緩ませていた。
じゅる、じゅるるるり……
粘った女体がきつく密着し、しゅうしゅうと服が溶かされていく。
「あぅ……」
じゅるじゅるとうねる粘状の女体が素肌にまとわりついてくるのは、とろけそうなほど気持ちよかった。
思ったよりもひんやりしている――そう思えば、じんわりと温もりが伝わってくる。
ぐっちゅりと粘り着いてきたかと思えば、もちもちした質感が与えられ――
その肉体の粘度は、変幻自在のようだ。
「ふぁぁぁぁ……」
彼女達に密着される快感に、健太は喘ぎ声を漏らしていた。
「くすっ……」
「ふふふっ……」
三体のスライム女は彼を抱きながら、くすくすと笑いをこぼす。
彼女達の体を形成するスライムがどろりととろけ、ねっとりと彼の体に絡み付き――
そして膜のように覆い包みながら、じゅるじゅると粘っこい愛撫を始めた。
目の前で早苗がされているように、スライムの表面がじゅるじゅると波打つ。
そうやって蠢くたびに、健太の体にも粘つくような刺激が与えられた。
「あぅぅ……! きもちぃぃ……ひっ!」
にゅる、くちぃ……
股間をにゅるりとスライムが包み、肉棒が絡め取られたのがはっきりと分かった。
大きくなっていたペニスまでが粘液の膜に包まれ、ぐっちゅぐっちゅと揉みしだかれる。
そればかりか、くちゅくちゅと締め付けられ――にゅこにゅこと扱かれ――
まるで手を用いているような多彩な刺激を、ぬるぬるのスライムで与えられているのだ。
「う、うぁぁぁぁぁぁ……」
快楽の声を漏らす健太の口を、粘液の女性は甘いキスで塞いできた。
「ん、んむ――」
にゅるり……と柔らかくぬめる唇の感触。
異様なまでに甘い匂いと、そして甘い味に酔わされる。
その甘さに蹂躙され、じんわりと脳が蝕まれていく――
「ん、んんん……」
粘液の女体と濃厚なキスを交わしながら、全身を――特に股間を念入りに愛撫された。
じゅるじゅる、ぐちゅぐちゅと……まるで、スライムに弄ばれ、貪られるように。
「ん、んあ……」
口を塞がれながら、健太は熱の籠もった吐息を漏らしていた。
肉棒がスライムでねっとりとこね回され、痺れのような感覚がじんわりと沸き上がってくる。
射精感が腰で渦を巻き、出口を求め始めていた――
「ふふふ……」
股間にまとわり付いていたスライムが、じんわりと温もりを帯び始めた。
とろけそうな熱が射精寸前のペニスを覆い包む――
ぐちゅぐちゅと蠢く刺激を、執拗に与え続けながら。
「あ、あぅぅ……」
このまま射精しろ、と――そう粘体の女が命じているのが分かった。
この温もりの中に、漏らしてしまえ――と。
「ん、んんんんんん……っ!」
そして健太は、なすすべもなく精液を迸らせてしまった。
股間を包み込んでいるスライムの中に、ドクドクと精液が放たれていく。
「ふふふ……」
三人の女体は妖艶な笑みを浮かべ、健太の全身を覆っている粘液をさらに激しく蠢かせてきた。
ペニスはじゅるじゅるとシェイクを受け、そのねちっこい蠕動は激しい快感を生み出し――
「ん、んんんんんん――ッ!!」
その刺激に耐えることができず、健太は連続絶頂に追い込まれてしまう。
カリ首の部分を特に念入りに責め立てるその動きは、精液を根こそぎ排出させるためのものだった。
「ん、んんん……!! んんんんんんん――!!」
カリの出っ張りをスライムがにちゃにちゃと何度も上下し、健太はよがり狂いながら精を漏らし続ける。
「ふふっ……」
「くすくす……」
股間を徹底的に責め抜きながら、粘液はじゅるじゅると彼の全身を蝕み始め――
健太の体を中心にして、三体分の女体がドロリドロリと溶け合い、混ざり合う。
粘体女達の胸から上はそれでも人間の形を残し、健太の体にしっかりと両腕を回して抱きすくめていた。
しかしその下半身は一つになって絡み合い、アメーバのように健太を貪っている。
搾れるだけの精液を搾り取った後で、とうとう健太の体を溶かしにかかったのだ。
「ひぁ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
柔らかくじゅるりじゅるりと咀嚼され、ドロドロに溶かされ、その粘液の一部とされてしまう――
自身の末路を悟りながら、その凄まじい快感には抗えなかった。
ゆるやかに肉体を溶かされながら、健太はその快楽に酔う。
ひくひくと肉棒が震え、精液とも言えないほど薄い残り汁が搾り出された。
「あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……!!」
ひたすらに生温く、ずぶずぶと沈み込むような恍惚感。
このまま精神が溶け出し、自分を包む女達と一体となるような――
薄れゆく意識の中で、それはとても素晴らしいことのようにも思えた。
「そう、あなたは幸せなの」
「さあ、私と一つになりなさい……」
じっくりと粘体女達に取り込まれながら、健太はそんな甘い囁きを耳にする。
ぐちゅぐちゅと体を溶かされ、身も心もねっとりと咀嚼されながら――
そのメッセージは、希薄になっていく健太の心へと確かに響いた。
「あぁぁ……」
その誘いに快楽の呻きで応えながら――彼もまた、ジェシアの一部となっていく。
そして「健太」という固有の存在は、この世から消えてなくなった。
拓海と優花の中学生カップルは、観覧車の中から園内の惨状を見下ろしていた。
地上はすっかりピンク色の粘液で覆われ、パニックに陥る男女の姿がはっきりと見える。
彼らは必死で逃げ惑いながらも、次々と粘液に包み込まれ――そして、呑み込まれているのだ。
「な、なんだ……? どうなってんだ……?」
「怖いよ……琢海くん……!」
狭い観覧車内――琢海の対面席で、優花は身を縮ませる。
しかし、彼女を抱き寄せる余裕など琢海にはなかった。
彼自身も、恐怖で竦み上がっていたのである。
「と、とりあえず、観覧車の中にいたら安全なんじゃ――」
高所だから安全――そんな甘い考えは、続けた目に入った光景によりたちまち崩れ去った。
自分達の前にぶら下がる観覧車内で、スライムに包まれて悶える男女の姿が目に入ったのだ。
その車内にはどっぷりとスライムが満ち、ダラダラと地上に滴り落ちるほど。
「ひ、ひぃっ……!」
「琢海くん、あっちも……!」
そしてスライムに襲われているのは、その観覧車だけではなかった。
こちらにも、あちらにも――ほとんどの観覧車内までスライムは侵食し、中の人間を襲っているのだ。
べちゃべちゃと絡み、男女の別なく覆い包んでいく粘液。
自分達は、逃げ場のない観覧車内にいる――その絶望的な事実に、少年少女は戦慄した。
もはや、互いの身を案じる余裕さえないほどに。
「ねぇ! 琢海くん、上!」
「あ、ひぃぃ……ッ!!」
二人は自分達のいる観覧車内に視線を戻し、そして真上を見上げて絶句した。
天井の部分から、じゅくじゅくと染み出し始めるピンクの粘液。
この観覧車内にまで、とうとうスライムが侵食してきたのだ。
熟れたフルーツのように甘ったるい匂いが、つんと鼻をついた。
「ひぃ……来るなぁ!」
手持ちのバッグを掴み、天井に投げ付ける琢海。
バッグは天井に当たった後、何の効力もないまま足元へと転がる。
その意味のない行動は、彼が完全にパニックに陥ったことを証明していた。
「怖いよぉ……琢海くん……」
多少は冷静さが残っている優花とて、取り得る手段などない。
観覧車が地面に到達するまで、まだ十分近く。
その地上も、完全にスライムの支配下にあるのだ。
二人は怯えおののきながら、天井から侵食し始めるスライムを見上げるしかなかった。
「どうしよう……怖いよぉ……」
「ゆ、優花ちゃん……」
天井にじんわりと染み出したスライムは、じわじわと面積を広げ――
そしてある程度の量が溜まると、だらり……と糸を引いて観覧車内の座席に垂れた。
「ひぃっ……!」
琢海は慌てて座席から飛び退き、急な移動のバランス変化で観覧車が揺れる。
スライムはねっとりと座席に広がり、じんわりと足元の床に垂れ落ち――
ぼた、ぼたぼた……
じゅる……じゅるるるるるる……
「ひぃぃ……」
さらに天井からはじゅくじゅくとスライムが侵食し、ねっとりと糸を引いて観覧車内に垂れ落ちてくる。
それは目に見えて量を増し、足元にどっぷりと溜まり始め――
若い恋人達は恐怖と絶望で身を竦ませるしかなかった。
向かい合う座席はすでにドロドロで、二人は靴を濡らしながら車内に立っている。
恐怖におののき、互いの体に身を寄せ合おうとしたその時――
「え……? な、なに……? これ……」
まるで、怯える優花を囲むように――
早くも脛のあたりにまで溜まったスライムの池から、数本の粘状触手がにゅるにゅると頭をもたげた。
それは粘液で形成されていながら、弾力に満ちた触手そのもの。
まるでそれぞれが自らの意志を持っているように、不気味に蠢き――
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
そして粘状触手は優花へと襲い掛かり、その細い体に絡み付いていった。
たちまち全身がツタのような粘状触手に巻き付かれてしまい、抗うことも出来ず動きを封じられてしまう。
「やだぁ……! たすけて、琢海くん……」
そのまま優花は、ぐい……と強く後方に引かれ、座席の方に引き戻されてしまった。
シートにはねっとりと大量のスライムが満ち、べちゃりと彼女の体を抱き留める。
優花の体は、ずぶずぶとスライムに沈み――しゅうしゅうと、その衣服が溶け始めた。
「ゆ、優花ちゃん……」
全裸をさらし、スライムの膜で覆い包まれてしまう恋人の姿。
それを前に、琢海は救いの手も差し伸べられず、呆然とたたずむばかり。
スライムは優花の下半身や胸を重点的に包み、ぞわぞわと震え始めた。
いや、それだけではなく――取り込んだ少女の体を、ぬるぬると揉みしだいているのだ。
……ぐちゅぐちゅ、じゅるり。
うにゅ、ぐちゅる……
「……きゃうん! ふぁ、あぁぁぁぁぁぁ……」
優花の怯えに満ちた瞳は、みるみる快楽の色に染まっていく。
その目には涙が滲み、半開ききなった口から唾液が垂れ落ちた。
たちまちにして表情は緩み、体がひくひくと震え――
彼女が何をされているのか、琢海にもはっきりと分かった。
「ゆ、優花ちゃん……!」
なんとか恋人を救おうと、身を乗り出した時――
スライムの池から盛り上がった別の粘状触手が、彼の両手首にもしゅるりと巻き付いてくる。
「ひっ……! は、離せ……!」
弾力をふんだんに含んだ、ヌメヌメの感触に琢海は背筋を震わせていた。
手首に絡んだ触手は彼の両腕を封じ、大きく左右に開かせてくる。
琢海は観覧車の真ん中で、直立したまま大きく両腕を開かされる格好となった。
さらに手首に絡んでいた粘状触手は、ゆっくりと螺旋状に絡みながら上腕の方へと這い伸び――ついには、上半身にも絡み始める。
「や、やめろ……!」
ぬちぬちとした不気味な感触――それが及ぼすくすぐったさに、身をよじる琢海。
床を侵食しているスライムに膝まで浸かり、足はまるで動かせない状態。
さらに床からも数本の粘状触手が這い上がり、琢海の下半身にさえ襲い掛かってきた。
ねっとりと這い上がるように、巻き付くように――ぬるぬる、ぬちゃぬちゃと。
まるで、粘液で形成された蛇に絡み付かれるかのように。
「くそっ……! 離せよぉ……!」
「あ……ん、んんんんんんん……!!」
そして――行動を封じられた琢海の眼前で、優花は何度も絶頂を体験させられていた。
全身を包んだスライムがぞわぞわと波打ち、にゅるにゅると這い回り、体中をねっとり愛撫しているのだ。
その股間にもスライムは淫らに粘つき、膣穴をにゅるにゅると滑るように出入りしている。
「んんん……! ふぁぁぁ――あぁぁぁぁぁぁ……!」
もはや目の前で大の字にされた琢海の姿も目に入らず、優花はスライムが与える快感に溺れきっていた。
全身から滲ませた汗、股間から溢れ出した愛液――それをジュルジュルと吸い取られながら、何度も何度も達するのみ。
「ゆ、結花ぁ……」
不気味なスライムに溺れていく恋人を、泣きそうな目で眺めるしかない琢海――
その体を、天井からどろりと垂れたスライムが襲った。
どっぷりと真上から滴った粘液の塊は、真下で拘束されていた琢海の体に被さっていく。
「ひっ……!? あ、あぁぁぁぁぁぁ……!」
ねっとりと肩から粘液を浴び、その流動を受け――琢海は、甘い声を漏らしていた。
それは自由意志を持って動いているのではなく、物理法則に従って上から下へと流れ落ちるもの。
スライムは肩から粘り着き、じゅるじゅると衣服を溶かしながら流動し、胸へ、腹へと垂れ落ちていく。
露わになった素肌をドロドロと這いながら――粘液の塊は、下腹部にも垂れかかった。
ズボンや下着を溶かしながら、ねっとりとした粘状の流動は股間をも巻き込んでいき――
「ふぁ……あぁぁぁぁ……」
その甘い感触に、琢海は思わず脱力する。
どろどろ、ねとねとと肉棒の表面に粘液が絡みつき、そして足元へと垂れ落ちていくまでの間――彼は、至福の快楽を味わった。
びちゃびちゃと、琢海の体を上から下まで流動した粘液が床へ垂れ落ちた瞬間――
彼のペニスは、びゅるびゅると精液を迸らせていたのである。
「ふぁぁぁぁ……」
ペニスに与えられた刺激は少なく、表面をヌルヌルと流れていった程度――
それでも彼は、肉棒にまとわりつき、ドロドロが滑っていく感覚だけで射精してしまったのだ。
放たれた精液は足元へと撒き散らされ、スライムの沼にみるみる吸収されていった。
「はぁ……はぁ……」
思わぬ瞬間に絶頂を迎え、恐怖の中でさえ戸惑いと気恥ずかしさを感じてしまう琢海。
さっきの粘液で衣服は上も下も溶け、もはや彼は全裸をさらしている。
その体は粘状触手にじっくりと巻き付かれ、動くことさえ出来ない。
精液の残滓を先端から垂らしながら、ペニスだけがピクピクと震えていた。
「あ……!」
そして琢海は――またも、自分の頭上にスライムの塊が溜まっているのを発見してしまう。
それはじゅくじゅくと量を増し、張力の限界まで来ると――重力に従い、ドロリと垂れ落ちてきた。
「あぁぁぁぁ……!」
迫ってくる粘液の塊を見上げながら、彼は恐怖と――そして、期待を感じていた。
さっきみたいな快感を、また体験できるのだ――
ぬるり……
ぐちゅ、じゅるるるるるるるるるる……
琢海の体に粘液の塊が垂れ、その体をヌルヌルと滑りながら床へと垂れていく。
「あひぃぃぃぃぃぃぃ……」
それは凄まじい快感だったが――さすがに一回射精したばかりなので、絶頂には至らなかった。
ペニスを直接刺激されているわけではないし、継続的に快感を与えられているわけでもないのだ。
ほんの少しの間、股間の上をにゅるにゅると流動していくだけ――
それは、まどろっこしい刺激だった。
「あ、あぅぅぅぅ……」
青年は両手両足を封じられながらも、股間を突き出すようなポーズを取ってしまう。
少しでも、肉棒に多くのスライムを浴びられるように――
それは、惨めなおねだりのポーズにも似ていた。
たった二度スライムを浴びただけで、彼の心はあっけなくとろけてしまったのだ。
もはや琢海の目にも、眼前でスライムに弄ばれる優花の姿は目に入らなくなっていた。
「あ、あぁぁ……」
またもや、天井にどっぷりと侵食してきたスライム――今度は、今までよりも大量だった。
それを見上げる琢海の目には、もはや快感の期待しかない。
そして――粘りを伴いながらダラダラと真下へ垂れ落ちてくる粘液の塊。
その落ちる先には、狙いすましたかのように琢海の肉棒があった。
彼の股間に、そのままスライムがべっちょりと被さってきたのである。
「ひぃ……ひぃ――ッ!!」
どろりとペニスに絡まってくる流動感に、琢海はみっともなく腰を震わせた。
スライムは尿道口に触れ、亀頭を包み――そのままだらだらと流動し、サオへと伝わっていく。
粘液が絡まり合い、とろけ合い、ペニスに絡まりながら滴っていく――涙が出るような、その甘い感触。
「あ、あぁぁぁぁ……」
それが根本から玉袋の方へと垂れ落ちてしまった直後、またも天井からスライムの塊が垂れ落ちてきた。
しかも今度は、途切れなくどぷどぷと――
どうやら、天井のその部分に穴が空いてしまったらしい。
外から観覧車を包み込んでいたスライムが、その穴から絶え間なく垂れ落ちてきているのだ。
徐々に、徐々に、量を増しながら――
「あ、あ……! あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――ッ!!」
ねっとりとした流動の感触がそそり立った肉棒を直撃し、琢海は快感の悲鳴を上げる。
ペニスでぬるぬると感じる流動の感触は、まさに絶品だった。
全く我慢することが出来ず――また我慢する気もなく、琢海はドクドクと精液を噴き上げる。
それはまるで、ドロドロと滴るスライムの滝。
そこに肉棒を浸してしまった琢海は、もはや精液を出し尽くすまでよがり狂うしかないのである。
彼の放った精液は粘液の滝に巻き込まれ、みるみる吸収されていった。
「こ、こんなの……ああ、あぅぅぅぅぅぅ……!」
目に涙を溜め、涎を垂らしながら粘液の滝にペニスを浸す琢海――
その姿は、いけない遊びに夢中になってしまった少年の姿そのものだった。
股間を襲う快感に全く抗えず、ただその悦びに溺れるのみ。
天井から垂れ落ち続ける粘液が、どぷどぷと足元を満たしつつあることも――琢海は、完全に思考の外にあった。
そして、次の瞬間――天井で、ぶじゅると奇妙な粘音が響く。
ぶちゅる……
ぶちゅるるるるるるるる……!
「う、うぁぁぁぁぁぁぁ……!」
唐突に、天井から観覧車内一面にピンクのスライムが降り注いできた。
天井の数カ所に穴が空き、スライムが一気に侵食してきたのであろう――
観覧車内の真ん中で立っていた琢海は、嫌でもその直撃を受けなければならなかった。
いや――もし彼が拘束されていなかったとしても、自らの意志でスライムを浴びたはずだ。
「あ、あひぃぃ……! ひぁぁぁぁぁぁ……!!」
観覧車内はスライムのシャワールームと化し、琢海は全身で粘液のシャワーを浴びていた。
頭から足先にまでくまなく与えられる、ヌルヌル、ぐちょぐちょの刺激。
ヌルヌルの流動感に、ねっとりと粘り着く感触――
股間にも、まるで狙いすましたかのように水流が当てられ、激しい刺激が与えられたのだ。
「ひぃ……! あ、あ、あぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……!!」
全身を揺すりながら、またしても絶頂に達する琢海。
べちゃべちゃ、びちゃびちゃと粘液にまみれ――その肉棒から、びゅるびゅると精液を撒き散らす。
射精中のペニスにスライムの塊がびちゃりと垂れ落ち、弾力と流動の感触に包まれ――
股間で受ける粘液のシャワーに、琢海は精液を漏らし続けるしかなかった。
「はぅ……あぅぅぅぅ……!」
琢海が快楽によがっている間にも、どっぷりと床に溜まった粘液は徐々に水位を上げつつあった。
いつしか膝を覆い、そして太腿にまで達し――
「うぅぅ……えっ……? あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――!!」
彼がそれに気付いたのは、ペニスを浸す水かさになってからだった。
床に溜まっていたスライムは、とうとう下半身を丸ごと呑み込むまでになった。
座席に座らされている優花は、とうに頭まで粘液に呑み込まれてしまっている。
「ふぁぁぁ……あ、あ、あぁぁぁぁぁん……」
それでも窒息することなく、彼女の全身に与えられる快感がねちっこくなったのみ。
琢海の方も股間までどっぷりとスライムの池に溺れ、それはスライムシャワーを浴びる以上の快感を生み出した。
「ひぁ……! あ、あああ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ぐっちゅ、ぐっちゅ、ぐっちゅ……!!
ぬるぬる、ぬるり……くちぃ……!
スライムが粘りながら下半身を包み、股間から会陰部、太腿から陰嚢、アナルまでまとめて愛撫し、こねくり回す。
ざわざわと震え、ぐっちゅぐっちゅと揉みしだき――それは、優花が受けているのと全く同じ責め。
それを性感帯の塊であるペニスに容赦なく与えられれば、ひとたまりもなかった。
「あっ……、あぅぅ……! うぅぅぅぅぅぅ……!」
スライムに包まれた肉棒からびゅくびゅくと精液が弾け、ピンクの粘液の中へと溢れ出る。
大量に漏れ出た白濁は、みるみる分解され――そして、粘液の中に取り込まれていった。
にっちゃ、にっちゃ、にっちゃ……
くちゅくちゅ……ぐちゅ、ぐちゅぐちゅ……!
「あひぃ……ひぃぃぃぃぃぃ……!」
一度や二度の射精では済まず、琢海は連続で精液を搾り取られた。
精液を射出させるためだけのマッサージを受け、全身をスライムにぐちゅぐちゅとまさぐられ――
いつしか観覧車内はスライムでみっちりと満たされ、琢海も優花も完全に粘液に包まれてしまう。
じゅるるるるる……じゅるり。
くちゅくちゅ……ぐちゃり、にゅる、にゅるにゅるにゅる……
そして――
彼の精液は散々に搾り尽くされ、いよいよスライムは琢海も優花もまとめて溶かそうとしてきた。
密度の濃い粘液がアメーバのように、じゅるり、じゅるり、と二人の体を包み――
ぐちゅぐちゅと撹拌し、咀嚼し、生温い快感の中でじっくりと溶かしていく。
「あ、あ、あぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……!!」
「ふぁ……あ、あぁぁぁぁぁぁ……」
二人の口から漏れるのは、快感の喘ぎのみ。
優花は失禁し、琢海は射精し――それもまとめて、スライムとドロドロに混ざり合う。
肉体も精神も何もかもが、ぐちゅぐちゅと溶かされ、じゅるじゅると取り込まれ――
そして――哀れな中学生カップルもまた、この粘状淫魔と一つになった。
「ふふっ……、ヒトの精……ヒトの生……」
堕粘姫ジェシア・アスタロトは、ゲート前に広がる大通りにたたずんでいた。
その純白のスカートの中からは、ごぽごぽとピンク色の粘液を垂れ流している。
彼女の肉体そのものである粘液は大通りをどっぷりと満たし、園内全域にも広がっていた。
そして逃げ惑う人々を絡め取り、男女の別なく無差別に取り込んでいくのだ。
何千という生が――
何億という精が――
無慈悲に吸い上げられ、その粘液の体にドクドクと流れ込んでくる。
「ふふ……もっと、もっと……ふふふ、あはははははは……!!」
幾千の命と幾億の精をその身で吸い上げ、高らかに哄笑するジェシア。
彼女によって催されたこの狂宴は、通常の淫魔が行う捕食とは異なるものだった。
ジェシアは人間の肉体を「生命」ごと取り込み、己の一部としてしまう。
すなわちジェシアに溶かされた人間は、言葉通り彼女と一つになってしまうのだ。
相手が女である場合は、粘液の中に取り込んで一体としてしまう。
そして、男であった場合は――濃厚な微生命、精子を残らず搾り尽くすことを忘れない。
搾り取れるだけの精液を搾り取って、一億を越える細かな生命素を取り込んでしまい――
その後に、男の肉体と――そして生命を取り込んでしまうのだ。
これが、堕粘姫ジェシア・アスタロトの行う「捕食」だった。
彼女は人間の肉体のみではなく、精神や生命までを取り込んでしまうのである。
「ふふ、ふふふ……」
ジェシアは酷薄な笑みをこぼしながら、ひたり、ひたりと歩を進ませる。
スカートをふわふわと纏わせ、大通りに満たされた粘液の上を滑るかのように。
ピンクの粘液は園内に溢れかえり、周囲一帯をどっぷりと満たしている。
その粘液に包まれ、貪られる裸の男女があちこちに転がり、快楽によがり狂わされていた。
「あ、あぐぅぅぅぅ……ひぃ……!」
地面に転がり、全身をねっとりと粘液に絡み付かれている青年。
「ふぁぁ、あぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
股間をぐっちょりとスライムに包まれ、じゅるじゅると淫らな責めを受ける少年。
「うぐ、うぁぁぁぁぁ……」
無数の粘液女体に抱き付かれ、ぐちゅぐちゅと粘り着く抱擁に溺れる男性。
「ああぁ……ん、んんんんん……っ!」
頭から足先までスライムに覆い込まれ、全身をじっくりと愛撫される女性。
「くすっ……ふふ、ふふふふっ……」
人々が快感に溺れる姿を眺め、快楽の呻き声を聞きながら――ジェシアは、いかにも可笑しそうに目を細める。
それでもまだ、園内にはスライムに取り込まれずに逃げ続けている人々が少数ながら存在した。
そういう連中をじっくりと追い詰め、ゆっくりと料理するのも楽しみのうち――
「ひ、ひぃぃぃぃぃ……!」
ジェシアの涼やかな目は、通りをばちゃばちゃと駆けている若い青年を捉えていた。
つい先程まで、自動販売機の上によじ登って避難していたようだが――
それも溶解され、膝あたりまで粘液の満ちた路上へと投げ出されてしまったようだ。
「おい、あんた……! 助け――」
青年はジェシアに助けを求め――その表情が、みるみる強張った。
ドレス姿で、粘液の上を悠々と歩いている――そういう所作を除いても、彼女の雰囲気は尋常ではない。
彼は賢明にも、この異常の元凶は目の前にいる女だと、そう本能的に確信したようだ。
「くすっ……」
怯えに満ちた視線を受ければ受けるほど、堕粘姫の嗜虐心と満足感は満ちてくいく。
ジェシアはまるで救いの手を差し伸べるかのように、その右手を青年へとかざした。
「ひぃっ……! く、来るなぁ……!」
くるりと背中を見せ、じゃぶじゃぶとスライムを蹴り分けながら逃げ去ろうとする青年。
ジェシアの差し出した右手の肘から先が、数本の触手状となり――粘液を滴らせながら、じゅるじゅると伸びていった。
それは、スライムで形成された弾力たっぷりの触手。
たちまち青年の体はそれに絡め取られ、巻き付かれ、触手に囚われてしまった。
「う、うぁぁぁぁぁぁ……!!」
彼の体に巻き付いた触手はぐじゅるぐじゅると溶け合い、スライム状になって上半身を包んでいく。
青年はそのまま、ジェシアの眼前にまで強引に体を引き寄せられた。
スライムに覆われている上着やシャツがしゅうしゅうと溶け、垂れた粘液が降りかかったズボンまで朽ち果ててしまう。
「ふふっ……」
さらに、青年へと差し伸べられたジェシアの左手――今度は、その五本の指が触手状となった。
五本の粘状触手は、じゅるじゅると男の股間に伸びていき、肉棒を巻き取ってしまう。
「あひっ……!」
螺旋状に巻き付いていた粘状触手も、ドロリ……と溶け合ってスライムの膜となった。
ジェシアは右手で青年の上半身を包み、左手でペニスを掌中に収めたのだ。
そして――艶やかな笑みと共に、青年を嫐り始めた。
ぬちゅ……ぐちゅぐちゅ……ぐちゅ……!
「あ……! あぁぁぁぁぁぁぁ――ッ!!」
スライムはぐちゅぐちゅと蠢きながら青年のペニスへと絡み付き、妖しい快感を与え始める。
まとわりつくように這い回り、じゅるじゅると締め付け、じっくりと揉みしだき――
「あぅ……はぅぅ、あ、ああっ……!」
青年はたちまち快感に溺れ、どぱっ……と白濁の花火を噴き上げた。
ジェシアはなおも股間への快楽刺激を与え続け、容易く二度三度と絶頂へ導いてしまう。
「ひぁ……! あ、あ、ああぁぁぁぁぁぁ……!!」
「ふふふっ……もっと楽しみなさい。もっと精を、もっと生を……」
柔らかく粘り着いてくるスライムにぐちゅぐちゅとペニスを揉みしだかれ、何度も何度も射精させられる青年――
快楽の呻きとともに漏れていく白濁液には、精子という濃厚な生命がふんだんに含まれていた。
何万、何億もの生命素が、ペニスが脈動するごとに、ドクドクとスライムの中に流れ込んでくるのだ。
それは、ジェシアにとってこの上もなく甘美な食事。
これら微少な生命を残さず取り込み――その後に、大元となった青年と一つになるのである。
「あぁぁ……あぅ、あぅぅぅぅぅ……」
青年の恐怖心は弾け飛び、粘液の与える快楽に溺れてしまったようだ。
その醜態を愉しみながら、ねっとりと股間を嫐り付くし――溜め込んでいるだけの精液を搾り尽くしてしまう。
ほんの数分で精液を一滴残さず搾り取られ、青年は桃源郷にいるような気分にさせられていた。
「ふふっ……涸れ果てた? では、一つになりましょう……」
ジェシアは軽く両腕を引き、青年の体を包んでいるスライム部分を分離させる。
切り離されたスライムは、彼の体にじゅくじゅくと巻き付きながら――みるみる、美女の姿をなしていった。
ドレスこそ着ていないものの、目の前のジェシアに酷似した外観だ。
じゅくっ……
ぐちゅぐちゅぐちゅ……
「あひ……ひあぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「ふふっ……」
もう一人のジェシアは、ゆっくりと青年を抱き締め、粘状の肉体で覆い包んでいく。
彼の体は、優しく包み溶かされ始めた。
「ひぃぃ……! あ、あ、あぅぅぅぅ……!」
体の隅々にまでまとわりつき、じゅくじゅくと揉みほぐし、細胞レベルで取り込んでいく――
それはまるで、獲物を包んで取り込んでいくアメーバ。
細胞単位で行うレイプ。強制的な生殖にも似た、異様な捕食。
青年は全身で感じさせられ、身をよじってよがり狂う。
「あ――! あ――! あ、あ、あひぃぃぃぃぃ――ッ!!」
涙と唾液を垂れ流しながら、彼はジェシアと一つになれる悦びを思う存分に感じさせられていた。
ぐちゅり、じゅるじゅる……
ぐちゅ、ぬちゅぬちゅぬちゅ……
「ひぁ……!あ、あがぁぁぁぁぁぁぁ!!」
腕も、足も、腰も、胸も、胴も、頭も、指も、耳も、鼻も、股間も、会陰部も――
体の各部を構成する細胞一つ一つが、じっくりと粘液に包まれる。
じゅるじゅると揉みしだき、こね回し、くちゅくちゅと締め付け、しゃぶり、舐め回す――細胞単位の愛撫。
肉棒に与えられて散々に狂わされた刺激を、より微少に全身へと与えられるのだ。
ペニスはびくびくと痙攣を続け、どぷっ、どぷっ、と涸れ果てたはずの精液が溢れ出した。
じゅるり……じゅるるるるる……
ぐちゅぐちゅ、くちゅくちゅくちゅ……
「あひぃ……! あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
精も根も尽き果て、青年のよがり声は掠れていく。
じゅるじゅる、ぐちゅぐちゅと全身を覆う粘液に包み溶かされながら――青年は、文字通りとろけていった。
粘状の女体に抱かれたまま、ドロドロに溶け、そしてジェシアと一つになる。
その最期の瞬間まで、青年は強烈な快感に悶え続けたのだった。
「ふふふ……あはははははははははははっ!!」
また一つ新たな生命を取り込み、ジェシアは哄笑した。
恍惚のままに溶かしてしまうのも、強烈な快感で狂わせながら取り込むのも――まさに、彼女の気紛れのまま。
大通りには呻き声と喘ぎ声が満ち溢れ、全てはジェシアの掌の中。
しかし通りを離れたところでは、まだ数人の人々が必死で逃げているようだ。
当然、それを捕まえて溶かしてしまうのは容易い――が、じっくり楽しむのも一興。
一気に平らげてしまうのもいいが、人間と戯れてみるのも悪くはない。
せっかく、わざわざ人間界にまで出張ったのだから――
「ふふっ……」
園内に満たされた粘液は、全てジェシアの肉体の一部。
すなわち園内全域が、彼女の知覚圏内にある。
現在、園内のそれぞれ異なる場所で逃げ回っている二人の男――
うち一人は地獄と化した園内で、勇気と機転に満ちた振る舞いを見せた。
そしてもう一人は、己の命惜しさに卑怯な振る舞いを行った。
同じような状況で、ここまで行動に差が出るとは――やはり、人間は面白い。
この両者には、褒賞と罰を与えてやらねばならないだろう。
「ふふ……あはっ、あははははははははは……っ!!」
褒賞と罰――ふと思い付いたそんな戯れに、ジェシアは身を震わせて哄笑する。
人々の絶望と快楽の呻きが満ちた通りで、堕粘姫は狂ったように笑い続けたのだった。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「ぐすっ……ぐすん」
泣きじゃくるポニーテールの女性を背負い、高校三年生の瀬戸勇二は関係者用通路を全力で走っていた。
この通路は外の通りほどスライムが侵食しておらず、まだくるぶしを濡らすほどの水位。
絡み付くスライムを蹴り払うように、勇二は両足を交互に前に出しつつ駆けていた。
「ダメよ、もう……みんな、助からない……」
ひっくひっくと泣きじゃくりながら、彼の背で女性は呟く。
「諦めるな! まだ逃げ道があるはずだ!」
そう鼓舞しながら、力強い足取りで通路を突っ走る勇二。
実は、この女性は彼にとって全くの他人――修羅場と化した遊園地で、初めて会った女なのだ。
それにもかかわらず、勇二はこの女性を――いや、一人でも多くの人を助けたかった。
「くっ……! こういう場合にどうするか、さすがに親父からは聞いてないな……」
消防士である勇二の父親は、様々な危機回避術を勇二に教えてくれた。
火事の場合の対処、溺れた人の救難――しかし、こうした異常事態に対する身の施し方など教わっているはずもない。
「はぁ、はぁ……出口か……」
通路の正面には、大通りへと続く出口が見えてきた。
そして案内標識によれば、左側の階段を下りると遊園地の地下設備室があるという。
さて、どうしたものか――
「ねぇ、早く外へ逃げよう……! 外へ……!」
「いや……こっちだ!」
勇二は素早く左に曲がり、地下への階段を一気に駆け下りた。
ポニーテールの女性は、勇二の背で表情を強張らせてしまう
「何考えてるのよ! 地下なんて降りたら、あのドロドロが……!」
「いや……あの粘液は、高いところから低いところに流れてる感じじゃなかった。それより、広場に出る方が危険だ!」
あの粘液は意志を持って床を這い、人の多いところへと優先的に押し寄せているようだ。
逃げながら勇二が見た限りでは、間違いなくそうだった。
あのスライムは流体の物理法則に従っておらず、自らの意志で流動しているのだ。
そして大通りには粘液がどっぷりと満ちており、あそこに出るのはまさに自殺行為。
そうした状況を総合的に判断し、勇二は地下への階段を駆け下りたのである。
「この規模の地下施設だと、防火シャッターが備わってるはずだ。
こういう場合、一番安全な場所に立てこもるのが一番なんだよ」
「あ、うん……そっか……」
自分より二歳ほど年下であろう高校生の機転に、背負われた女性は納得するしかなかった。
「……」
しかし勇二は、一つの事実をあえて言わなかった。
こうした災害時に安全地帯へ立てこもるというのは、ひとえに助けを待つ場合の常套手段。
助けが来ないような場合には、最悪の悪手となる。
このような状況で、本当に救助など期待できるのか――
――いや、期待するしかない。
ここで諦めたら、自分ばかりかこの女性の命も失われてしまうのだ。
希望を捨てることなく、勇二はひたすらに地下通路を駆けた。
彼は本能的に、脱出は不可能なことを認識しており――そして、それは正解だったのである。
だが、残念なことに――園内のどこに立てこもったとしても、やはり希望はなかった。
堕粘姫ジェシア・アスタロトの現れた場所に居合わせた、それ自体が絶望なのである。
「はぁ、はぁ……」
階段を下り、地下通路を駆ける勇二。
しかし、この地下にもスライムはじんわりと侵食してきた。
どっぷりと天井に塊を作ったスライムが、まるでトラップのようにだらりと垂れてきたのだ。
「う……うわっ!」
勇二の頭上から垂れてくる大量のスライム――それを浴びたのは、背負っていた女性だった。
皮肉なことに、危険から守っているはずだった女性が盾となった形で、スライムの直撃を受けたのだ。
「ぐっ……しまった……!」
「や……、やだぁぁぁぁぁぁぁ……!!」
女性の悲鳴が、静かな通路へと響く。
スライムは女性の背中へとかぶざり、そしてねっとりとその体を覆い包み始めたのだ。
「あ……! やだ、やだぁ……!」
勇二の背で女性は身を激しくよじり、そのまま床へと落下してしまった。
「くそ……! なんてこった……!」
床の上に転がる女性の体に、スライムはじゅるじゅると群がっていく。
その肢体はどっぷりと粘液にまとわりつかれ、しゅうしゅうと衣服を溶かされ――
「あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……!!」
そして全身を粘液に絡め取られ、女性は甘い喘ぎを漏らし始めた。
全裸のままスライムに包まれてしまい、もはや理性を失ってしまった様子だ。
もう救いようのない状態になってしまったことは、一目で分かった。
「くっ、くそ……ッ!!」
青年は怒り任せに、壁を強く殴り付ける。
「畜生、なんで……!」
女性を救えなかった悔しさが、勇二の身を焦がしていた。
しかし、いつまでも歯ぎしりしている場合ではない。
彼の父親は言っていた。他人の身を救うことと、自分の身を救うことの価値は同じだ、と。
自分の命を大切にしない人間は、他人の命も大切にできない人間だ――と。
そう言った父も、他人の命を救うために自分の命を落としてしまったではないか。
そして今、自分のなすべきことは――
「くそっ……! すまない!」
――とにかく、生き延びること。
女性をその場に残したまま、勇二は再び通路を駆け始めた。
彼に出来た選択は、明らかに手遅れの女性をこの場に残して去るか――それとも、共倒れになるか。
いったい誰が、勇二の判断を非情であると責められようか。
もし責めるとしたら――それは、勇二本人だけだろう。
「くそ……! なんで、俺は……!」
通路を駆けながら、勇二は何度も怒りと悔恨の言葉を口にする。
たまたま逃げる途中で助けただけの、名前も知らない女性。
それなのに――彼女を救えなかったという事実が、勇二の心に重くのしかかる。
心の中で様々な悪態を吐きながら、彼は突き当たりの設備室へと飛び込んでいた。
この広大な遊園地内の設備をコントロールする部屋――予想通り、ここまでスライムは達していない。
襲う人間がいないところへは、スライムも立ち入らないようだ。
「よし、ここなら……」
勇二は壁の開閉スイッチを押し、防火シャッターを閉鎖させる。
その重々しい鉄の塊は、出入り口を塞ぎ――この部屋を密閉させることに成功した。
これは、火災によって発生する煙をも遮断するシャッターなのだ。
これで、大丈夫なはずだろう――
「……」
……それで、どうなる?
無言のまま椅子に腰を下ろし、勇二は深々とため息を吐いていた。
ここに逃げ込むまでに、何人もの犠牲者を見てきて――そして、ただの一人も救えなかった。
必死で助けようとしたあの女性すら、助けることができなかった。
自分だけがおめおめと逃げ延び、ここでこうしているのだ。
いや、自分はただの高校生。そんなことまで背負い込む責務はないのだと――
そう思えるほど、勇二はポジティブでもなかった。
と――苦悩していた矢先。
「な……! そんな、馬鹿な……!」
じわじわと、シャッターの隙間からピンク色の粘液が染み出してくる。
勇二には知るよしもないが――ジェシアの粘液は、防火シャッター程度で防げるようなものではないのだ。
「く、くそ……!」
勇二は椅子から立ち上がり、シャッターとは反対側の壁へと後ずさる。
じわじわ染み出してくる粘液は量を増し、どぷどぷと室内に侵食しつつあった。
もはや、逃げ道などない――それを悟ってしまう勇二。
このまま粘液に覆い込まれ、自分も餌食とされてしまう――その絶望感は、すぐに諦観の念へと変わっていった。
どうせ誰も助けられず、あの女性さえ救えなかったのだ。
もう、どうでもいい――そんな投げやりな気持ちが、勇二の心中を支配してしまったのである。
「ふふ、ふふふ……」
「……!?」
奇妙な女性の笑い声。
そして室内に侵食してきた粘液は、ゆっくりと盛り上がって人型を形成し始めた。
それは恐ろしく綺麗で、妖艶な美女性の姿。
端正な顔に、長い青髪――そのピンクの肉体は半粘状で、ごぽごぽと泡立っている。
そいつがくねくねと妖しく体をよじるたびに、ねっとりと粘液が垂れ落ちた。
「ふふ……さあ、いらっしゃい……」
後ずさる勇二にじわじわと近付きながら、女性は艶めかしく両腕を広げる。
ぬちゅ……と、その両腕の間に粘液の糸が引いた。
同時に、甘い匂いが周辺へと溢れ出す。
それはとろけるように甘く――そして、ほんのわずかな腐臭が伴っていた。
「うう……」
勇二の背は壁に当たり、完全に追い詰められてしまう。
カゴの鳥状態の彼に、粘状の女――ジェシアはじっくりと距離を詰めていった。
勇気と機転、そして友愛に満ちた行動を見せた勇二に対し、褒賞の抱擁を与えようとしている――
そんなことは、彼には知るよしもない。
「さあ、愛を交わしましょう……」
「う、うぅぅ……」
その艶やかな声を耳にしているだけで――
じゅるじゅると蠢く粘液から放たれる、甘ったるい匂いを嗅いでいるだけで――
ふらふらと、彼女に溺れてしまいたくなる。
「くっ……!」
落ちてなるものか――と首を左右に振り乱す勇二の前に、ジェシアは立った。
優しく両腕を広げ、抱擁するかのように――それはまるで、獲物を誘う食虫花。
「ぐ……」
もう、どうでもいい。
どうせここで死を待つだけなら、いっそ――
勇二の心は折れ、そしてジェシアの抱擁を受け入れた。
いや――そればかりか、自分で女体に両腕を回して抱きすくめたのだ。
ジェシアの両腕は、彼の首と背中に優しく回された。
閉鎖された密室内で、絡み合い、抱き合う男と女。
片方は人間で、片方は粘液の淫魔――
衣服が一瞬で溶かされてしまったことも、もはや気にならなかった。
「う、うぁぁぁ……!」
ジェシアの粘状の肉体に抱かれながら、勇二は身をよじらせ始めた。
素肌でジェシアの粘液と密着しているだけで、とろけそうな快感が沸き上がってくるのだ。
彼女の肉体はゼラチン質独特の弾力に満ち、ヌルヌルと粘液でぬめっている。
その表面は小刻みに波打ち、抱いているだけでも勇二の全身に心地よい感覚を与えてきた。
「あ、あぁぁ……」
たちまち肉棒はむくむくと硬直し、ジェシアの体に押し当てられる。
にゅるん……とした感触が亀頭の裏――裏筋付近で滑り、それだけでも絶頂してしまいそうなほど気持ちいい。
それはちょうどジェシアの股間の位置だが、そこには女性器のような挿入口は存在していなかった。
しかし――
――にゅるり。
「あぅ……!」
ジェシアの股間部分に押し当たっていた亀頭が――妖しい音と共に、中へと滑り込んだのだ。
まるで、底なし沼に肉棒が沈んでしまったかのような感覚。
ペニスがずぶずぶと彼女の股間に埋まり、呑み込まれ、包まれていく――その根本まで。
「あ、あ、あぁぁぁ……!」
彼女の中は柔らかく、ヌメヌメと蠢いてる。
肉棒は粘液に絡め取られ、弾力あるスライムに包まれ――そして、丹念で繊細な粘状愛撫が始まった。
歓迎するように、いたわるように――優しく、甘く、勇二のペニスを揉みほぐす。
もちもちと締め付け、ぬぷぬぷと擦りたて――弾力に満ちた刺激が浴びせらているのだ。
勇二はジェシアの胸の中で体を脱力させ、その快楽を存分に味わった。
ぐちゅ、ぬちゅ……ぐちゅり。
「あぅ……あ、あぁ……」
悶える勇二の顔を眺め、ジェシアはくすりと微笑む。
「さあ、貴方の精を解き放ちなさい――私の、中に」
「ぐっ……! あぁぁぁぁ……ッ!」
肉棒が溶かされている――そう錯覚するほどの熱さと心地よさ。
そして、肉棒を包む粘状の肉壁自体もとろけているかのようだ。
ぬるやかに煮えたぎった粘肉が、ドロドロに粘り、グチュグチュに絡み付き――
その温もりの中に、思いっきり放ってしまいたい衝動にとらわれてしう。
「あ、あぁぁぁぁ……」
みるみる頭の中はバラ色になり、そして――
ぐちゅ……ぐちゅ、ぐちゅ……ねちゅ……
ぬちゅぬちゅ……じゅるり……
「あ、あぅぅぅぅ……!」
どくん、どくん、どくん……と、勇二は精液を迸らせてしまった。
生命の素が凝縮した液体は、ジェシアのピンク色の肉体へと注がれていく。
「ふふ……もっと、もっと……」
「あ、あ、あ……! あぁぁぁぁぁ……!!」
ドクドク射精しながら、スライムの中で身をよじらせる勇二。
粘液はどんどんペニスに絡み付いてきて、密度を増す一方。
熱く溶けた粘肉がまとわりつき、締め付け、絡み、揉みしだき――
股間に浴びせられる粘った刺激に、萎えるどころか射精が止まることさえ許されない。
ぐちゅ、ぐちぃ……
ぬちゅぬちゅ……ねちょり……
「さぁ……私の中に、生命を迸らせなさい……もっと、もっと……」
「あ、あうぅぅぅぅ……」
甘い快楽に呻きながら、勇二は精をドプドプと漏らし続けた。
肉棒は熱い粘液の中で溺れさせられ、もみくちゃに嫐られ――とろけてしまいそうな快感に、心まで溺れてしまう。
これが、ジェシアの与えてくれたご褒美。
か弱い身で勇気と同族愛を見せた青年への、ジェシアの慈愛――
「あぅ、あぅぅ……ん……」
喘ぎ声が漏れる勇二の口を、ジェシアの唇が強引に塞いでいた。
彼のペニスを包んでいるのは、女体の股間に相当する部分。
いつしか勇二は、ジェシアと交わって愛を交わしているかのような感覚に囚われていた。
それを優しく受け止め、ジェシアはその粘状の肉体を駆使して勇二を悦ばせる。
じっくり、ねっとり――と。
「ふふ……もっと、愛し合いましょう……」
「あぅぅ……ん、んん……」
ぐっちゅ、ぬっちゅ……と、その結合部からは淫らな粘音が響く。
「愛を交わして、生命を迸らなさい……、その生を……その精を……」
「ん、んんんんんんんん……!」
返事の代わりとして、精液をたっぷりとジェシアの中に注ぎ込む勇二。
彼女の中は蠢き、うねり、ねじれ、まとわりつき、迎え入れた男性器を愛し尽くす。
勇二の心は、ジェシアとの交接の快感にとろけていった。
じきに、その身まで溶かされてしまうことを知るよしもなく――
ぐちゅぐちゅぐちゅ……
くちゅっ……くちょくちょ、ぐちょ……
「ん、んんんんん……」
ジェシアに抱かれたまま、恍惚の表情でだらだらと精液を漏らす勇二。
堕粘姫の淫らな褒美は、まだまだ続く。
「はぁ、はぁ……ひぃぃ……!」
情けない悲鳴を呑み込みながら、香島啓介は大通りの西側にある裏道を必死で駆けていた。
路上のあちこちに転がっている、若い男女の姿。
彼らの体にはスライムがまとわりつき、じっくりと蝕まれている。
粘液に包まれたほとんどの人は抵抗を諦め、恍惚の表情でじゅるじゅると溶かされているようだ――
「ひぃっ! く、く、来るなぁ……!」
足元に絡み付いてくる粘液を振り払うように、啓介は死に物狂いで走る。
この遊園地に一緒に来ていた恋人――春日緑は、すでにスライムの餌食となった。
粘液に襲われる恋人を、啓介は見捨ててしまった――いや、それよりも悪い。
迫ってくる粘液の女体、啓介にすがりついてくる緑――
なんと彼は、緑を粘液女の方に突き飛ばしたのだ。
そして緑がスライムに包まれている隙に、自分だけが逃げ出したのである。
「はぁ、はぁ……来るな、来るなぁ……!」
それが、ほんの数分前の出来事。
必死で足を動かし、狭い通りを駆けながら――啓介は、ようやく自分の行いにおののき始めた。
決して彼は、狡猾な意図を持って恋人を囮にしたわけではない。
あまりの恐怖と、そして常人以上に強い生存本能が勝手に体を動かしてしまったのだ。
「み、緑……僕は、なんてことを……」
彼は悪人だったのではない、ただ悲しいまでに弱い人間だったのである。
そうして罪の意識におののきながらも、恐怖は消えることはない。
必死で走っているうちに、なんとか劇場前にまで辿り着いていた。
ここを通って大通りに出れば、後は入り口のゲートまですぐ――
「待って……!」
「えっ……?」
不意に啓介を呼び止めたのは、劇場前にいた見知らぬ女性だった。
劇場の入り口は階段を五段ほど上がった形になってて、そこまではスライムも達していないのだ。
お洒落なコートを着たその女性は、ちょうど二十歳ほどだろうか。
高校生の啓介から見て、若干ながら年上のお姉さんに見えた。
「その……君も生存者……? えっと……」
綺麗なお姉さんに呼び止められ、戸惑う啓介。
普通なら喜ばしいシチュエーションだが、今はあまり歓迎できない。
彼女が足手まといになって、こっちまでやられてしまうかもしれないのだ――
「えっと……その、僕も必死だから……、君を連れては……」
「何を言ってるの、大通りに出ちゃダメって言ってるのよ」
「え……?」
彼女の口調は落ち着いた様子だが――それも表面だけのようだ。
その細い体は小刻みに震え、なんとか恐怖を押さえ込もうとしているように見える。
「どういう事なんだ? 大通りから、すぐ外へのゲートに――」
「あっちは……もうダメ。行っても、餌食になるだけ」
思い出したくもない――そういう風に、女性は告げた。
つまり、大通りにはスライムが充満しているようだ。
そこに踏み込むのは、自殺行為ということらしい――
そこでようやく啓介は、彼女は自分を助けてくれたのだと理解した。
「ど、どうしよう……それなら、もう……ひぃぃぃ……」
感謝の言葉より、絶望と恐怖の言葉が先立ってしまう。
決して彼が恩知らずでも自分勝手でもなく――ただ、ひたすらに弱いのだ。
弱さは人を卑怯者にし、恩知らずにも自分勝手にもする。
彼は悪の心を持っていたのではなく、強さが欠けていたのである。
普段の彼は弱いがゆえに細心で、人間関係にも慎重で、そして優しい。
しかしこういう非常時になると――悲しいまでに、弱さに流されてしまうのだ。
「ちょっと、落ち着きなさいよ。とにかくこっちへ――」
「あ……うん」
啓介は粘液の溜まった路面から、階段状の劇場入り口へと上がった。
単に高所へ上がっただけで逃げられるとは思えなかったが、このまま膝下を粘液に漬けているよりはマシ。
もはや、安全なところなんてありはしないのだ――
「安全な場所があるの。私に着いてきて」
「えっ……!?」
啓介の絶望を、この女性はあっけなく覆した。
安全な場所なんてものが、この園内に……?
「ここの劇場よ。奥の控え室にあるシャッターを閉めると、粘液は入って来られないみたい。
女の子が数人、そこに閉じこもってるわ」
「だ、大丈夫なのか……? この中にいれば……?」
助かるかもしれない――そんな希望が、絶望に満ちた啓介の心中を照らす。
希望は余裕を生み、彼はあらためて女性に尋ねた。
「ところで、君は? この劇場前で、何を――?」
「一人でも多くの人を助けようと思って……貴方みたいに、前を通り掛かった人を呼び込んでるの。
ここに立ってるのは怖いけど……私も、救われた命だから」
女性は強がりのような笑みを浮かべ、意味深なことを行った。
もしかしたら危険のあるかもしれない劇場前に立ち、一人でも多くの人を助ける――
啓介には、その勇気が眩しく見えた。
「君は……強いんだね」
「そんなに、強くないわよ。ただ、劇場内に逃げたのは私よりも若い子ばっかりだったから。
年長の私が、一番しっかりしなくちゃと思って――」
彼女は不意に啓介にすり寄りると、すがりつくように腕を絡めてくる。
「あ……ちょっと……!?」
「でも、良かった……男の人が来てくれて。心強い……」
密着した彼女の体は、とても温かかった。
正直なところ、自分など頼りにされても何にもならない。
自分より、この女性の方が何倍も勇気があるだろう。
「とにかく、中に入って。さぁ……」
「あ、うん……」
女性に腕を引かれるまま、啓介は劇場の中へと入っていった。
中は真っ暗で、足取りがおぼつかなるほど。
この状況で、照明は作動していないようだ。
「あ、足元、気を付けてね。段差があるから」
「うん……」
啓介の腕を抱きながら、暗い劇場の通路を真っ直ぐに進む女性。
漆黒の闇にもかかわらず、彼女の足取りは確固としたもの――
しかし、そんな些細なことに気付く余裕は啓介にはなかった。
「その、君の名前は……?」
腕を引かれながら、啓介は尋ねる。
「私は篠原綾、大学生よ。彼氏と一緒に、ここに来たんだけど――彼、私をかばってスライムに襲われちゃったの」
「それは……辛かったね」
この女性をかばって、命を落とした男。
そして、恋人を盾に逃げ延びた自分。
両者を比べると、惨めささえ沸き上がってくる。
綾も、失った恋人のことを思い出しているのか――
しばらく無言で、二人は歩を進めた。
「……その後は、訳も分からずに必死で逃げたのよ」
ぼそりと、呟くように告げる綾。
闇に満ちた通路の先――正面には、ほのかな灯りが見えた。
どうやら、そこが綾の言っていた安全な控え室。
数人の女の子が、そこで震えているという話だ。
「とにかく怖くて、泣きながら通りを走って――」
綾はそう語りながら、その暗い部屋へと啓介を招き入れる。
ぼんやりとしか見えないが、確かに数人の女性がしゃがみ込んでいるようだ。
思ったより大勢――十人ほどだろうか。
そこに立ち込めていたのは、あの甘ったるい匂い。
……ぐちゅぐちゅ、じゅるり。
じゅるじゅる、じゅるる……
「え……?」
部屋のあちこちから聞こえてきた音に、啓介は目を瞬かせた。
今のは、確かに――あの、不気味な粘音。
この部屋までは、スライムも入って来れないんじゃなかったのか――?
それに、この匂いはあの粘液の――
「それで私は通りを必死で走ったんだけど、結局は逃げ切れなくって――」
何かおかしい。
この場所も、綾の言葉も。
何なんだ、これは?
いったい、ここは――
「それで……とうとう私も粘液に包まれて、メチャクチャにされたの。
何度も何度もイかされて、その後ジュルジュルに溶かされて……そして、ジェシア様と一つになったのよ」
ぐちゅ、ぐちゅり……じゅるじゅる……
「そ、そんな――!?」
そして次の瞬間、暗かった小部屋の全貌が明らかになった。
部屋のあちこちに転がっているのは、全裸にされた男。
彼らにねっとりと絡み付いているのは――ピンク色の粘液と、一見したところ普通の人間にも見える女達。
しかし良く見れば、女達の体は半粘状にとろけ――明らかに、まっとうな人間ではなかった。
彼女達はあの粘体女と同じように、男の体に自身の肉体を絡めて取り付いている。
ある者は女にまたがられ、ある者は全身を包まれ、ある者は股間にスライムをべっとりと絡められ――
「う、うぅぅぅ……」
騎乗位で腰を振り乱され、その粘液の中にドクドク精液を注ぐ男。
「ひぃぃ……」
ある男はシックスナインの体勢でのしかかられ、肉棒をぐちゅぐちゅとしゃぶってもらっている。
「あう……あぁぁ……」
別の男は手コキを受けていると思いきや――女性の手は完全に液状化していて、ぐちゅぐちゅとペニスを包み込んでいた。
この部屋はもはや、粘液に取り込まれた女達の狂宴が繰り広げられる場。
そして、彼をここまで導いた綾もすでに――
「う、うわぁぁぁぁぁぁ!!」
絶叫する啓介――その刹那、綾に抱え込まれていた右腕が、とぷん……と彼女の体に沈み込んだ。
その中は生温く、まるで底なし沼に沈み込むような感触。あるいは、グチュグチュに潰れたゼリー。
右上腕部から下が綾の体に包み込まれ――さらにもう一方の左腕にも、部屋にいた少女の一人がしがみついてきた。
「ふふっ……つかまえた♪」
黒髪が綺麗な、高校生くらいの少女――彼女も啓介の左腕を、ずぶずぶと自身の体の中に沈み込ませてしまったのだ。
「あ、あぁぁぁぁぁ……」
両腕に女体という枷を受け、啓介はその場にへたばり込んでしまう。
「あはは……」
「……くすっ」
綾ともう一人の少女は、啓介を挟み込むようにぴったりと寄り添い――
彼に密着していた腕や胸などをじわじわと粘液状に変え、啓介の上半身を覆い包んできた。
「私達は、ジェシア様と一つになったばかり……」
「ほんの前まで、人間だったの……」
「ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃ……!」
じゅる、じゅる、じゅるるる……
両腕から両肩へ、女体を構成していた粘液がじっくりと侵食し――ちょうど胸の部分で、二人の粘液が混じる。
啓介の上半身はすっかり粘液で覆い込まれ、衣服はしゅうしゅうと溶かされていった。
「あ、あぁぁぁ……」
上半身が丸裸にされ、粘液の流動を素肌で感じさせられる。
くちゅくちゅと蠢くその感触は、異様なほどに心地よかった。
ヌルヌルと肌の上を這う感触、そして独特の温もり――ズボンの下で、ペニスがむくむくと大きくなっていく。
「ふふふ……っ」
もっこりと膨らんだ股間のテントを見据え、綾と少女は目を細めた。
そして綾は、啓介の股間の方へと右手をかざし――その腕先から、ドロリ……とスライムの塊をズボンの上に落とす。
それはしゅうしゅうと溶解性を発揮し、ズボンや下着をたちまちのうちに溶かしてしまった。
「ひぃっ……! あ、あぁぁぁぁ……」
両腕を封じられ、下半身を露出させられ――啓介は、無力感にさらされながら身を震わせるしかない。
自分も今から、この部屋にいる男達のように陵辱されてしまうのだ。
粘液で散々に犯され、精液を搾り尽くされ、そして溶かされてしまう――
「うぁぁぁぁ……」
怖いはずなのに、怯えているはずなのに――彼の肉棒は、快感への期待で張り詰めてしまっていた。
「ふふっ……」
「くす……あはははっ」
びくびくと震える肉棒に視線をやり、淫靡な笑みを浮かべながら――
綾と少女は、ヌメヌメとスライムを啓介の上半身に這い回らせてくる。
その体に沈んでいる啓介の両腕は、きゅっきゅっと弾力ある粘壁に締め付けられていた。
指先にはヒダヒダが絡み、にゅくにゅくと収縮し――それはまるで、膣での締め付けを受けているかのようだった。
そして彼女達の粘液は膜状になって啓介の胸や肩、背中を覆い、ぐちゅぐちゅと流動のマッサージを開始する。
首筋をにゅるにゅるとくすぐり、脇の下をじっくり這い回らせ――
そして両乳首を、二人の女がまとわりつかせたスライムがじゅくじゅくと刺激する。
「あ、あぅぅぅぅ……!」
吸い付かれ、舐め回されるような刺激に啓介は身を震わせた。
しかし――二人は、下半身にはいっさい触れてこない。
自らの体に沈み込ませた両腕、そして包み込んでいる上半身に巧みで繊細な粘液愛撫を施しつつ、下半身には見向きもしないのだ。
ペニスの先端から、つつつ……と先走り汁が垂れた。
「あ、あぁぁぁ……」
快感と同時に、もどかしい焦燥感が沸き上がってくる。
最初は心地よかったが――上半身の刺激では、達することは出来なかった。
下半身も責めてほしい――言葉にこそ出さないものの、啓介はそう願い始めていたのだ。
「ふふっ……」
「くすくす……」
啓介の焦れた心境を見越しながら、二人の粘女は上半身のみを丹念に愛撫し続ける。
ナメクジのように胸や脇腹にスライムを這い回らせ、脇の下をにゅくにゅくと擦り――
「あ、あぅぅぅぅぅ……」
身悶えしながら、啓介は燃えたつような不快さに囚われ始めた。
イきたいのに、イかせてもらえない――それは、あらゆる拷問よりも苛烈な責め。
しかも周囲の男は、啓介とは全く逆――精液を散々に搾り取られているのだ。
「あぐぅ……うぅぅぅっ!」
壁際に転がり、粘体女に騎乗位で跨られている男――彼は呻きながら、にゅくにゅくの女体の中に精を迸らせた。
それも、二度、三度――連続強制射精に追い込まれているようだ。
「ひ、ひぃぁぁぁぁぁ……」
壁にもたれている青年のペニスは、少女の形をした粘体女にスライムを絡められていた。
とろけた手のような粘液がぐちゅぐちゅと肉棒をこね回し、あっという間に射精させてしまう。
あっちにいる男も、あそこの少年も、みんな股間を執拗に責められているのに――
「あ、あぅぅぅぅぅぅ……」
スライムに乳首をくちゅくちゅと弄られ、啓介は喘ぎ声を漏らす。
ねちゃねちゃ、くちゃくちゃと――上半身が粘液に責められる快感。
それによって下半身にじんわりと溜まった欲望の渦を、放出することができないのだ。
このモヤモヤを、一気に迸らせてしまいたいのに――
少しでもペニスをスライムで包んでもらえるだけで、射精できるのに――
「な、なんで……」
それは、わざとやっていることが明らかだ。
なぜ自分だけは、ああいう風にしてもらえないのか。
なぜ、股間を責めてもらえないのか――
「う、うぅ……?」
ふと、彼の正面に溜まっていたスライムが盛り上がり始めた。
それはみるみる女性の形となり――そして、見慣れた姿に変形していく。
「そ、そんな……」
上半身に与えられる快感も一時的に止み、啓介は目を見張っていた。
か弱いお嬢様風の容姿ながら、やや気の強そうな眼差し。自慢だったサラサラの長髪。
その姿は――啓介の恋人、緑そのものだったのだ。
「み、みどり……なのか?」
これは幻か、それともスライムの化け物が作った偽物か――
しかし、彼女が見せている態度――首を竦めた上目遣いは、むくれている時の緑の態度。
これこそが、ジェシアが戯れに与えた啓介への罰だった。
ここに現れた緑は決して形だけの偽物ではなく――その精神も生命も、本物の緑そのもの。
今の彼女は、ジェシアという存在に取り込まれた、緑という一つの生命なのである。
「無事だったのか……みどり……」
「……」
緑は無言のまま、膨れたような顔で啓介を睨め付けた。
そうだ――無事なわけがない。
おそらく緑は、あのままスライムに取り込まれたのだ。
そして今は怪物の一部になりながら、緑だった時の記憶や意識も持ち合わせている――
啓介は、おおむね現況を正確に理解した。
「ご、ごめん……緑……」
「……」
啓介の謝罪の言葉に対しても、緑はすねた態度を改めようとせず――
そして、啓介の両脇を固める二人の粘女になにやら指示を出した。
くにゅ、にゅくにゅく……
じゅるるるるるるるるる……
「あひぃっ!!」
そして――啓介の上半身を覆い包んでいた綾と少女のスライムが、再びうぞうぞと蠢き始める。
ざわざわと粘体が震え、包んでいる乳首や首筋、胸や脇の下、背中をくまなく愛撫した。
じゅるじゅると表面を流動し、ねっとりと這い回る――
「み、緑……?」
その刺激に悶えながら、啓介は眼前に立つ緑を見上げた。
間違いなく、これは彼女の指示で行われているのだ。
「なんで……緑……」
「……」
緑は無言のまま、静かに右掌を啓介にかざす。
その指先から、粘液が一滴たらり……と糸を引いて垂れ落ち、ぽつり、とペニスに垂れた。
「あぅ……」
それは、雫といってもいいほど少量。
亀頭に粘ついたスライムは、ねっとりと這うように亀頭表面を滑り落ち――
カリの出っ張りににゅるりと絡みながら、サオを滑っていった。
緑の垂らしたわずかなスライムは、そそり立った肉棒の表面を流動しながら太腿へと垂れていったのである。
ねっとりと、焦らしながら這うような刺激を与えながら。
「うぅぅ……」
ほんの僅かのスライムを、股間に垂らされる刺激。
その心地よさと、そして物足りなさに啓介は身をよじっていた。
それは非常に気持ちいいものの、射精に至るには足りないのだ。
「緑……いったい、なにを……あぅっ!」
またもや、ぽたり……と雫が亀頭に垂らされた。
それはヌラヌラと肉棒を滑り、狂おしい快感を与えていく。
たまらなく心地よい、そして射精には至らない快楽――
上半身に絶えず与えられているねちっこい刺激が、啓介の焦燥感を倍加させる。
「お……怒ってるのか、緑……?」
当たり前だ、怒らないはずがない――あらためて、啓介は自分の言葉の愚かしさに気付いた。
意図的に啓介を追い詰め、生殺し状態にする――それが、緑の行う恋人への罰なのだ。
ぽたり……
「あうっ……!」
またしても亀頭にスライムを垂らされ、啓介は身を震わせる。
もっと、激しく肉棒を触ってほしい。思いっきり嫐ってほしい。
周りの男達がされているみたいに、自分も容赦なくイかされたい。
それなのに――
「……」
緑は冷たい視線を送ったまま、淡々と亀頭へのスライム雫責めを続ける。
ぽたり、ぽたりと……人差し指から伝う粘液で、じっくりと生殺しの刺激を与えながら。
「あ、あぅぅ……イ、イかせて……」
「……」
啓介の懇願にも、緑は冷たい眼差しを向けるのみ。
彼女に、この程度で許す気は全くなかった。
そればかりか、啓介の体にまとわりついている二人の粘女に、さらなる指示を出す。
清楚な緑は表情にこそ現さないが、静かに、そして深く怒っていたのだ。
「ふふ……」
「くすくす……」
啓介の両脇から、その上半身を包み込んでいる二人の女性――
彼の両腕を包む感触が、より淫らに変化した。
綾の肉体に沈んでしまっている右腕――その人差し指に、粘液がねっとりとまとわりついてくる。
まるで複数のリングが人差し指の根本から先端までを包んでしまったかのよう。
そして、そのリングの一つ一つがぐにゅぐにゅと収縮を開始したのだ。
「あぅぅ……」
それは、激しくランダムに扱きたてるような甘い刺激。
さらに右手の中指には、それとは異なった刺激が与えられた。
「あぁぁぁ……」
狭い粘道で、くちょくちょと妖しく締め付けられているのだ。
また薬指の先端には、クニュクニュと弾力ある粘液の塊が包み込んでくる。
小指はスライムでじっくりと揉みしだかれ、親指はちゅうちゅうと吸い付かれ――
五本の指それぞれが、異なる刺激を受けているのだ。
「あぅ……こんな、こんなぁ……」
この刺激のどれか一つでもいいから、ペニスに与えてくれたら――あっという間に、射精してしまえるのに。
にゅくにゅく……じゅるり。
ぽた……ぽたぽた……
「あぅ……下にも……お願い、緑ぃ……」
啓介はもはや恥も外聞も捨て去り、惨めに懇願していた。
しかし、緑の返事は――びくびく震えるペニスに垂らされた、少量の雫。
じっくりと焦らしながら、何度も何度も肉棒にスライム雫責めを続けるのみ。
あまりの生殺しに、啓介は泣き叫びたい衝動に駆られていた。
「あ、あぅ……あぅぅぅ――!」
そして、綾と異なる方の少女が抱きかかえる左腕にも淫らな責めが加えられた。
舌のようなニュルニュルの触感が腕の上から下にまで絡み付き、にゅるにゅると這い回る。
上腕や肘、手の甲や掌、指の一本一本、そして指の間の水かきの部分までくまなく舐められ――
さらに腕全体が粘液の渦に呑み込まれたかのように、ぐいんぐいんと流動したのだ。
「あぁぁぁぁぁぁ……」
これを、肉棒で味わってみたいのに。
この刺激でペニスを嫐ってもらい、ドクドク射精したいのに――
ぐちゅぐちゅぐちゅ……じゅく、じゅるじゅる……
ぽたり……ぽたり……ぽたり……
「みどりぃ……あぅぅぅ……」
「……」
緑は、肉棒に粘液の雫を淡々と垂らし続ける。
決して、射精させはしない。
まるで恨みを晴らすかのような、執拗な生殺し――
ぽたぽたと亀頭に垂らされる刺激により、啓介はもはや気も狂わんばかりだった。
「あぁぁ……イかせて、イかせてぇ……」
とうとう涙さえ流しながら、啓介は恋人に懇願する。
しかし、その返答は延々と続く焦らし責めだった。
上半身を艶めかしく責められながら、十本の指には甘美な刺激が与えられ――
その刺激は否応もなく股間への快楽を呼び起こさせながら、それは決して与えられない。
この生殺し地獄こそが、啓介への罰。
恋人を盾にして、自分だけが逃げた――その行動の報いなのである。
ぽたっ……、ぽたり、ぽたり……
「緑ぃ……イかせてぇ……イかせてぇ……」
だらだらと先走り汁を垂れ流し、よだれと涙を撒き散らせながら、啓介は無様に懇願し続けるのだった。
自身が見捨てた恋人の、冷たい眼差しを浴びながら――
「うぅぅぅ……」
「あひぃ……あぁぁぁ……」
大通りのあちこちにはスライムに取り付かれた男女が転がり、その呻き声がこだまする。
「くすくす……ふふっ」
粘液でどっぷりと満たされた路面を悠々と歩みながら、ジェシアは笑みを漏らした。
その勇気と機知で逃げ延びていた男も、粘体の分身と熱い愛を交わしている。
その卑怯さで逃げ延びていた男も、見捨てた自身の恋人から苛烈な焦らし責めを受けている。
最後まで逃げ延びていた二人も、こうしてジェシアの手に落ちたのだ。
もはやこの餌場内で、自由に行動している者はいなくなった――
「……?」
空の彼方から遊園地に接近してくる、奇妙な気配。
ジェシアは空を見上げ、それを敏感に察知していた。
何か――恐らく人間の乗り物が、ここに近付いてきたのだ。
「ふふっ……」
すぐにジェシアの視界に入ってきたのは、黒塗りのヘリ2機。
重々しいローター音を響かせ、ゆっくりと高度を下げながら――ヘリは、園内上空へと侵入してきた。
そのまま空中で側面ドアが開き、漆黒の装備に身を包んだ人影が次々に眼下へと降下していく。
ヘリ1機につき4人ずつ――合計8人。ジェシアの見たところ、7人が男で1人のみ女。
彼らは真っ黒なタクティカルアーマーとフルフェイスヘルメットを着用し、仰々しい大型銃を所持していた。
そんな完全武装の特殊部隊が、ジェシアの餌場と化した遊園地へと空挺降下してきたのである。
背のパラシュートが開き、彼らは次々と遊園地の片隅に降り立っていった。
「くすっ……ふふ、あははははははははは……っ!!」
ジェシアは、ひときわ嗜虐的な笑みで表情を歪ませる。
この地に集まった若い男女だけでなく、ひときわ鍛え抜かれた人間達まで生け贄に捧げてくれるなんて――
人間というのは、なんと懐が広いのだろうか。
これは、存分に歓迎してやらねばなるまい。
八人の精鋭は、地獄絵図と化した遊園地に降り立っていた。
上空から見た異様な光景――そして園内に満ちた粘液を踏みしめ、今度の相手はかつてない怪物であることを思い知る。
彼らはみな降下予定地点の半径20メートル以内に降り立ち、ただちに一箇所へと終結した。
突入前に確認した地図によれば、ここは遊園地の西側通り。
ここを東に進めば、最も被害の激しい中央大通りに出るはずだ――
「……」
隊長とおぼしき男性は、隊員達に向けて素早くハンドシグナルを送った。
それに従ってチームは警戒隊形を取り、中央通りに進もうとする――そんな彼らを出迎えたのは、粘状の女体。
地面に侵食していた粘液がゆっくりと盛り上がり、まるで道を塞ぐように、女性の形状を成していったのである。
「――撃て!」
しかし――その粘液が人間の形状を取るよりも、隊長の攻撃合図の方が早かった。
八人は瞬時に、互いの体を攻撃に巻き込まない隊形を取り、一斉に銃のトリガーを引く。
いや――それは正確には銃ではなく、携帯用の次世代火炎放射器。
前世代では背に背負うほど大きかった燃料タンクを、スプレー缶サイズまで小型化。
野戦での使用も可能なほど取り回しの良い、対スライムタイプ用の特化兵器だ。
その銃口から放たれた渦状の業火は、一瞬で粘状の女体を焼き尽くしてしまった。
「ふふ……」
笑みを浮かべながら溶け散り、周囲に四散する女体の粘片。
それは粘性を失わず、特殊部隊隊員達の体にもびちゃびちゃと降りかかったが――
しかしその粘液片は、彼らの着用しているボディアーマーに触れた途端にしゅうしゅうと蒸発していった。
「……」
何事もなかったかのように、隊員達は火炎放射器の燃料をチャージする。
武器のみでなく、彼らの着用している防具も対スライムタイプ専用装備。
その表面に絶えず電磁波と熱を流し、流体の接触をシャットアウトする構造なのだ。
それだけでなく、アーマーの素材はケプラー繊維と火龍のウロコ。
それに、耐水魔術が入念に施された――いわば、最先端科学と最高位魔術のハイブリッド。
化け物狩り専門の彼らからすれば、そこらのスライム娘といった下級淫魔など赤子と変わらない。
ただし、重大な問題は――堕粘姫ジェシア・アスタロトは、そこらの下級淫魔とは根本的に次元の異なる存在であったことだ。
「ふふ……」
「あはは……」
彼ら8人を囲むように、その周囲の粘液が次々と盛り上がり――たちまち、複数の女体がにゅるにゅると形成されていく。
隊員達は素早く円の隊形を形成し、互いの死角をカバーしながら周囲に火炎放射を見舞っていた。
迫り来る女体は、その業火で次々と焼き滅ぼされていく――
ぐちゅ、ぐちゅり……!
と――不意に、彼らの足元に広がるスライムの沼が渦を巻いた。
八人をまとめて一呑みにしようと、まるで粘液のトラップのように大口を開けて食らいついてきたのだ。
「……総員、分散!!」
素早く反応し、その場から飛び退く隊長。
同時に、彼を含めた7人がその場から飛び退き――反応が遅れた1人だけが、その粘液に包み込まれてしまった。
「ぐうっ……!」
彼の技量が決して劣っていたというわけではなく、それは位置的な問題。
フォーメーションの最前衛だったので、隊形の中央で起きたスライムの予備動作を視認できなかったのだ。
こうして彼はドーム状のスライムに閉じこめられ、その中にドロドロと粘液が満ちていく――
「あぅぅぅ……!」
対スライム用の防具も、ジェシアの濃厚な粘液を集中的に浴びせられてはもたなかった。
衣服もまとめてしゅうしゅうと溶かされ、ドームにはじゅくじゅくと粘液が満たされてしまう。
どぷ、どぷどぷ……
ぐぷっ……ぐちゅぐちゅ……じゅるり……
それはまるで、どっぷりとピンク色の粘液が満ちた鳥カゴ。
人間一人が呑み込まれたその中で、何が行われているのかは外から伺い知れない。
ただ、不気味な咀嚼音のようなものが周囲に響いていた。
ぐちゅ、じゅぐっ、じゅぐっ……
「ぐっ……! エイジ……!」
隊員の一人が、仲間を救おうと粘液のドームに火炎放射器を向けた――そこに隙が生まれてしまう。
「ふふっ……」
粘状女体の一人が、しなやかな手を彼にかざし――その肘から先が、無数の粘状触手に変化して伸びていった。
「うぁっ……!」
完全に隙を見せていた彼の体は、たちまち絡め取られ、巻き付かれて触手に囚われてしまう。
巻き付いた触手はドロドロと粘状になり、その体をじっくりと覆っていった。
「あう……ひぃぃぃ……! あぅぅ……」
装備を溶かされ、素肌の上からスライムに包まれていく隊員――
その悲鳴には、すでに快感の喘ぎが混じっていた。
「くそっ……!」
四方から迫り来る粘状女体と戦火を交えながら、残る六人は唇を噛んだ。
彼の犠牲により、何よりも優先すべきは自分の身だということが示されたのである。
もはや、残された六人に仲間を救う余裕などなかった。
焼いても焼いても沸いてくる粘液の女体、四方から伸びてくる触手、足元から彼らを呑み込もうとする粘液のトラップ――
その対処で、精一杯なのだ。
「ふふっ……」
粘状女の一人が胸を突き出し――その大きな乳房が、ごぱっと弾けた。
自身の体を形成する大量のスライムを、一気に周囲へ噴射させたのだ。
ねっとりと粘ったスライムは、トリモチのように放射線状に飛び散っていく。
「きゃっ……!」
隊員の一人――チームで唯一の女性隊員がそれを浴び、その身を絡め取られてしまった。
「あぁぁぁ……」
彼女の体にはべっとりとスライムが絡み付き――そして、ねっとりと包まれていく。
たちまち衣服が溶かされて全裸があらわになり、そして粘体での苛烈な陵辱が始まった。
また一人が犠牲になり、これで三人目――
「畜生、何てことだ……」
足元からジュルジュルと絡み付いてくる粘液の触手を避け、左右から迫ってくる女体に業火を浴びせ――
練達した戦闘技能を発揮しながら、隊長は唇を噛んだ。
残りは五人。もう、これ以上の犠牲は出せない――
「ッ……!」
背後から腕を伸ばしてくる女体に、振り向きざまの火炎放射を浴びせ掛ける。
業火をその身に浴び、焼失してしまう粘状女体――それでも、彼女達は倒しても倒しても湧き出てきた。
それも当然、このスライム女達の苗床は足元にどっぷりと広がっているのだ。
「……」
派手に戦火を交え、敵の攻撃パターンを目の当たりにしながら、隊長はこの怪物の特質を読み取る。
こいつは、多数の「生命」を内包した――いわば、群体のようなもの。
統括している「生命」を滅ぼせば、他の「生命」も連鎖的に滅びるはず。
ならば、なすべきことはただ一つ。中核を始末することだ――
「今から、中央を狙うぞ……!」
「はい!」
「……了解」
隊長の発したその一言で、歴戦の猛者達は彼の意図を理解した。
上空からヘリで見下ろした限り、中央通りが最も粘度が濃い――つまり、そこに中核がいるはずだ。
隊長を先頭にフォーメーションを組み直し、五人は大通りに出る東方向へと走りだしていた。
四方から群れ寄る、粘状の女を薙ぎ倒しながら――
こうして、五人は大通りに向かって走り去った。
その場に残された三人はというと――もはや、ジェシアの陵辱を受けるのみだった。
ごぼごぼ……ごぼっ。
ごぷっ、ごぷっ……、ぐちゅり、ぐちゅぐちゅ……ぐちゅっ。
「う、うぁぁ……」
粘液の満たされたプリズンに閉じこめられた男は、スライムに浸かりながら粘状の愛撫を受け続ける。
まるで、温もりに満ちた泥沼の中で溺れているような感触。
ナメクジのようなヌルヌルした生物に、びっしりと全身を這い回られるのにも似ている。
ペニスにも濃厚なスライムが粘り着き、その若いエキスをじっくりと搾り取られていた。
肉茎をこね回すようなスライムの動きに、彼は快楽の喘ぎを漏らす。
「あぅ、うぁぁぁぁぁぁ……」
ぐっちゅぐっちゅと体中で流動し、股間をじゅるるじゅるりと責め上げられ――
スライムの中で徹底的に蹂躙されながら、ひたすらドクドクと精液を漏らすのみ。
ぐじゅり……ぐちゅぐちゅ……ぐちゅっ。
じゅく、じゅく、ぐちゅり、ぐちゅり……じゅるるるるるる……
粘液に覆い込まれてしまった別の男は、ざわざわと集まってくる粘状女体の集団抱擁を受けていた。
抱きすくめられ、しがみつかれ、まとわりつかれ――
「あ、あぅぅぅ……ひぁぁぁぁぁぁ……!!」
ゲル状の粘体にもみくちゃにされ、男はじたばたと溺れるようにもがく。
当然ながら、与えられているのは苦痛ではなく快感。
剥き出しにされた肉棒には、女の手ともスライムともとれるジュルジュルしたものが念入りに蠢いているのだ。
カリにも裏筋にも尿道口にも粘液が絡み、締め付け、揉みしだく。
「あ、あ、あぁぁぁぁぁ――!!」
ひくひくと体を震わせながら、男は何度目かも分からない精液をスライムに捧げていた。
じゅくり、じゅくり……
ぐちゅ、ぐちゅ、くにゅくにゅくにゅ……!
そして女隊員も、全身をスライムに絡め取られて弄ばれていた。
「ん……! あ、あぁぁぁぁぁぁ……」
クチュクチュと体中を揉みしだかれ、膣内をにゅるにゅると掻き回され――
「やだ、もうだめ……あぁぁぁぁぁぁぁぁ――!!」
全身をひくつかせ、数十回目の絶頂へと導かれてしまう。
こうして三人とも、みるみる快感に溺れていった。
男はジェシアに生命の素を吸ってもらい、女は全身を可愛がって貰う――それしか考えられない。
ジェシアの激しい陵辱は、強固な意志を備えた彼らをも瞬時に堕落させてしまったのだ。
「うぅぅぅ……」
「あぁぁぁぁぁ……」
「んん……ん、あぁぁ……」
こうして彼らは粘液の快楽に溺れ――そして最後は、ジェシアと一つになってしまうのである。
「ちっ、なんて化け物だ……!」
四方から群れ寄る粘液女体に火炎放射器の業火を浴びせ掛けながら、五人は一直線に通りを駆けた。
膝の辺りまで粘液に満ちているが、密度の薄い粘液程度なら防具の性能のおかげで取り込まれる心配はない。
じゃぶじゃぶと沼を渡るかのように、五人は通りを突き進む。
その脇に転がっているのは、スライムに取り込まれようとしている人達。
若い男や女が、その体をジュクジュクと貪られている――それは、まさに地獄絵図。
もはや悲鳴も聞こえず、あちこちから漏れ聞こえるのは快楽の呻き声のみ。
「くそ……エイジも、ミシアまで……」
隊員の一人――コードネーム・ツカサは、唇を噛んでそう呟いた。
彼は、チームの中でも最年少。まっとうな人生を歩めたなら、今は高校二年生だったはずだ。
「……悔やむのは任務を終えてからだ、ツカサ」
落ち込む部下を、隊長はびしりとたしなめた。
後方から伸びた触手を避け、振り向きざまに火炎を浴びせ――
淡々と、まるで機械のように正確な動作で粘状女達を葬りながら。
「はっ! 以後気を付けます、ナギ隊長」
そう言いながら、ツカサは正面に立ち塞がる女体に火炎を叩き込んだ。
しかし、それにしても――
足に絡んでくる触手を焼却しながら、隊長のコードネーム・ナギは目の前の光景を見据える。
淫魔、サキュバス――男の精液を養分にするタイプの化け物が、最近は異様に多くなった。
その活動はこの一年で驚くほど活発化し、あちこちで淫魔の絡んだ事件が多発しているのだ。
もっとも、大テーマパークが丸ごと呑み込まれるという規模は初めてだが――
強いて比べるなら、少し前に起きた楽裏市のバイオハザード。
これは、死者数千人という最悪の事態になった。
そして、それから数ヶ月後の聖志林学園事件――
この際は死者数こそ少なかったものの、たった一体の植物型淫魔に学園が丸々占拠されている。
おまけに投入された『化け物狩り』チーム・アルファは、学園内での戦闘で壊滅しているのだ。
「うあっ……!」
隊員の悲鳴が、ナギの思考を妨げた。
チームの一人が迫り来る女体に上腕を掴まれ――その瞬間に、足元から沸き上がる粘液の触手に絡め取られたのだ。
「ひぃ……あぁぁぁッ!!」
そのまま彼の下半身はスライムに封じられ、何人もの粘体女が群れ寄って、重なるようにまとわりついていく。
たちまち彼の体は、十体以上の粘体女に包み込まれてしまった。
じゅるじゅる、グチュグチュと装備が溶かされ――たちまち彼の表情は快感に染まってしまう。
にゅるにゅる、ぐちゃぐちゃと淫らな粘音が辺りに響いた。
「ぐっ……! ラダ……!」
仲間を助けようと、そちらに銃口を向けるツカサ――
しかし、これでは救おうとした対象ごと焼き尽くしてしまうことになる。
もう、どうしようもない――隊長のナギは、冷徹かつ妥当な判断を下さざるを得なかった。
「……」
隊長は無言のまま掌を見せ、そして指先を大通りの方に向ける――意思伝達は、それで十分だった。
新たな犠牲者をその場に残し、四人は走り出す。
戦いの場で犠牲者が出るのは、当然のこと――後ろを振り向く者は、一人としていなかった。
「はぁ、はぁ……くっ、面倒だな」
遊園地中央の大通りに近付くにつれて、足元に広がる粘液の濃度は濃くなっていく。
取り込まれたりはしないものの、じゅるじゅるとまとわりついてくる重圧は相当のもの。
泥沼に膝まで浸かりながら戦うようなもので、動作は相当に制限された。
その上、突入時の半分にまで戦闘要員は減ってしまっているのである。
「ナギ隊長。やはり、中央大通りに――」
「ああ、間違いなくいるな……」
これまでの戦闘経験によって――いくつか、隊員達は淫魔に共通する性質を掴んでいた。
一つ、奴らは派手好きだ。
こそこそ潜むことはあまりせず、自分の存在を誇示したがる。
まあ――こういう大きな事件を起こす個体だからこそ、派手好きなところも大きいだろうが。
さらに一つ、奴らは好奇心が強い。
その行動パターンからして、様々な人間との接触を求めている節がある。
どこか、劇場型犯罪者の行動パターンに似ているようなところさえあった。
こいつらは単に餌場を求めているわけではなく、巨大な舞台を演出して楽しんでいるのだ。
そして一つ、奴らは人間を舐めている。
人間という種が、淫魔という種を超越することはないと――頭からそう決めてかかっている。
これらの点を考慮すると、奴は堂々と大通りにいるはずだ――
経験と勘から導いた隊長の推論は、まさに的を射た状況分析だった。
群れ寄る粘体を薙ぎ倒しながら、ようやく大通りに出る四人――
巨大な中央噴水には、どっぷりとピンク色の粘液が溜まっていた。
そこからドプドプと、広場にスライムが流れ落ちている。
その噴水前に――まるでどこかの令嬢のような、ドレス姿の異様な美女がいた。
「……」
ごくりと唾を呑み込み、思わず立ちすくむ四人。
歴戦の彼らすら、棒立ちにならざるを得ない威圧感と異様さが、その女性にはあった。
こいつこそが、間違いなくこの地獄絵図を生み出した張本人――
口許を忌まわしい笑みで歪める美女――ジェシア・アスタロトの涼しげな横顔は、底知れない妖気のようなものを伺わせている。
その美貌と禍々しさに、四人は戦慄するのみ――
「くすっ……うふふ」
四人を見据え、異様なまでに艶めかしい笑みを見せるジェシア。
素早く攻撃フォーメーションに移行する四人に対し――すっ、と右腕を差し出した。
「な……!」
「えっ……!?」
その次の瞬間、彼らは信じられないものを見ることになった。
それは、いわば粘液の大海嘯。
さっき粘体女がやっていたような――自らの体を形作る粘液を、周囲に噴出させるタイプの攻撃。
しかしジェシアが繰り出してきたのは、さっき見せられたのとはケタ違いの規模だった。
その華奢な体がたちまち粘状化し、本来の体積をはるかに上回る大津波となり――
彼女の立っていたところから放射線状に、高さ2メートルを超える大波が押し寄せたのである。
「そんな……!」
「ぐぅっ!!」
飛んで避ける者、物陰に飛び込む者――四人はとっさに、それぞれの方法で粘液の津波を避けきった。
足元に流動する粘液の池、舞い散る粘液飛沫、激しい波の音――
「くそ、なんて滅茶苦茶な……」
電柱を蹴って高く跳躍し、津波を避けきった一人の隊員。
彼は路面に着地し、敵の姿を探す――が、見当たらない。
ジェシアはその肉体を津波に変化させ、周囲に押し寄せたのだ。
と、いうことは――
「上だ、リア!!」
「え……?」
隊長の指摘に、真上を見上げる隊員。
大津波によって飛び散った粘液飛沫が、彼の頭上にじゅるじゅると集まっていたのだ。
それはみるみるドレス姿の女の形状を成し、頭上から迫ってきた――
「う、うぁぁぁッ!!」
飛び退こうとする彼が見上げた、ジェシアの美しい姿――それは、クラゲのような生物を連想させた。
ふわりと広がるスカートは、まるでクラゲの傘のよう。
迫ってくるその内側には粘液の塊がうじゅるうじゅると蠢き、彼女の足は数本の触手状に変化していた。
それこそクラゲの触手のように――それはニュルニュルと彼の体に絡み付き、自由を奪ってしまう。
「ひっ……!」
触手に巻き付かれ、身動きできなくなった隊員――彼の体を、スカートが一気に覆い包んでしまった。
それはまるで、触手で獲物を捕らえ、傘の中に引き込んでしまうクラゲの動きそのもの。
「う、うぁぁぁぁぁぁぁぁ……!!」
そんな悲痛な叫びを残し、彼はジェシアのスカートに呑み込まれてしまったのである。
外界を隔てるスカートの中で、哀れな男が辿る運命は――もはや、明らかだった。
粘状触手が、スライムが――彼の全身を徹底的に陵辱し始める。
ぐちゅ、ぐちゅ、ぐちゅり……
じゅく、じゅく、じゅるるるるるるる……
「くっ……!」
残る隊員三人は、ただ絶句するばかり。
そのスカートで男を丸呑みにしてしまったジェシアの姿は、異様の一言だった。
上半身は華奢な美女の姿だが――腰から下は、半透明のスカートがドーム状に広がった姿。
そのスカートの部分は、高さ三メートルほど。
男を丸呑みにして大きく膨れ上がったスカート部分から、女性の上半身が突き出ているという形だ。
それは、男を覆い込んで閉じこめる牢獄にも見えた。
ぐちゅぐちゅ、じゅるるるるるるるるるるり……!
じゅるっ、じゅるっ、じゅるっ……! ぐっちゅ、ぐっちゅ、ぐちゅ……!
スカートの表面はドレスのレース状となり、中で何が行われているかは見えない――
どちらにしろ、隊員達は見たくも想像したくもないだろう。
隊員三人に囲まれる中、ジェシアは捕らえ込んだ男をじっくりと包み溶かしてしまったのである。
「ふふっ……」
男一人を美味しく平らげ、妖艶な笑みを浮かべるジェシア。
そして隊長のナギは、彼女と正面から向き合った――
「くそっ……貴様ぁ!!」
常に沈着冷静だったはずの、ナギの怒声が周囲にこだまする。
そのまま彼は、怒りに満ちた動作でジェシアに銃口を向けた。
どんな状況でも熱くなることのない、明らかに不自然な隊長の態度――
「……隊長?」
ジェシアのちょうど背後に位置する隊員――カイは、ナギが見せたことのない激昂の意味に気付いた。
あれは、意図的にこの怪物の気を引いているのだ。
その隙に背後から攻撃を仕掛けろと――絶好の位置にいる、自分へのメッセージ。
カイは、それを即座に理解した。
「許さんぞ、よくも俺の部下を――!」
怒りに震え、そう怒鳴りつけ――そうしながら、ナギはわざとジェシアの気を引く。
その視界の端に、暗殺体勢に入ったカイの姿を捉えながら。
いける。奴は背後の伏兵に気付かず、こちらに気を取られている――
「ふふっ……くすくす」
ジェシアは不敵に笑いながら、膨らんだスカートをみるみる縮ませていく。
中に囚われた彼の精を残さず啜り取り、その肉体を溶かして消化してしまったのだ。
彼女の受かべている笑みのメッセージを、相対するナギははっきりと受け取っていた。
貴方も、こういう風にしてあげる――そう言っているのだ。
意図的にジェシアの気を引きながら、ナギは内心で戦慄せざるを得なかった。
「……」
その一方で――
彼女の背から影のように忍び寄り、腰のホルダーから対スライムタイプ専用の高振動ナイフを抜くカイ。
そのまま呼吸を整え、ジェシアの背に刃を突き立てようとする――
「ふふ……あははは……っ」
「えっ……?」
彼が攻撃に移ろうとした、その刹那――何かが、ジュルジュルと体に絡み付いてきた。
それは、ジェシアの髪――
彼女のブルーの髪は触手のように、そして髪の束は粘液の膜のように――複雑に蠢きながら、カイに巻き付いてくるのだ。
「う……ぐっ……!」
その両腕も、肩も、胴も腰も、伸縮する髪で絡め取られてしまうカイ。
それは、触手で獲物を絡め取ってしまうイソギンチャクのようにも見えた。
「カイ――くっ……!」
「うわっ……!」
残るナギとツカサの体にも、足元から伸びてきた触手が絡み付いてきた。
それは両手両足を縛り上げ、たちまち二人を動けなくしてしまう。
「ふふっ……」
三人全員の動きを封じてしまい、嗜虐的な笑みを見せるジェシア。
そして――苛烈な陵辱は、まず粘液状の髪に巻き取られたカイから行われた。
「あ、あ……! ひぃっ……!」
まるで繭にでもするかのように、ジェシアの髪は彼の体に何重にも絡み付き、覆っていく。
フェイスマスクやアーマーをあっという間に溶解され、そしてジェシアの背へと引き寄せられ――
「あ、ひぃぃぃ……!」
そしてカイはジェシアの体に沈み込み、ねっとりとうねる粘状の肉体に覆い包まれた。
ぶちゅる、じゅるじゅるじゅる……
ぐちゅ、ぐちゅぐちゅぐちゅり……!!
「あ、あひぃぃぃ……あぁぁぁぁぁぁぁ――ッ!!」
さっきのスカートの時とは違い、今度の陵辱は半透明なジェシアの体内で行われた。
その体中に粘度の濃いスライムがべっとりと絡み、うじゅうじゅと這い回り、そして股間を重点的に包み込む。
「うぁ、あぁぁぁぁぁぁ……」
みるみるうちに、カイの顔は恍惚に染まっていった。
スライムは肉棒に巻き付き、くにゅくにゅと収縮し――
まるで残る二人に見せ付けるように、徹底的な責めを受けていたのだ。
「うぁ……あ、あぁぁぁぁぁぁぁ……!!」
ジェシアの半透明の体内で、ビクビクと震えるカイの体。
その肉棒の先から、ドクドクと白く濁った体液が溢れ出る。
「くっ……」
触手によって動きを封じられた二人は、ただそれを眺めるしかなかった。
次にこうなるのは貴方達――そんなメッセージを込めて、ジェシアはわざと見せ付けているのである。
ぐっちゅ、ぐっちゅ……
じゅくじゅくじゅる……! ぐちゅり、じゅくじゅくじゅく……!!
「あぁ――!! ひぃ、あ、あ、あがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
身も世もない絶叫が響き、ジェシアの中でカイはよがり狂う。
その全身にスライムがぐじゅぐじゅと這い回り、ねっとりと揉みしだかれているのが外からも分かった。
ペニスからは、壊れた蛇口のように精液がドプドプと漏れ続けている。
「……」
ツカサは目を逸らし、ナギはジェシアを睨み続けた。
そうしている間にもカイは体中を蝕まれ、侵食されていき――じわじわと、ジェシアの中で溶解されてしまう。
恍惚の表情のまま、カイはジェシアと一つになる――その一部始終を、二人は見せ付けられたのである。
「……ツカサ。オプションEだ」
「えっ、しかし――」
触手に絡まれ、身動きが取れないはずの二人――彼らは顔を見合わせ、短く言葉を交わした。
「お前も分かっているだろう、いいな」
「……はい」
渋々と頷くツカサ――それと同時に、触手で絡め取られているはずのナギが動いた。
右手で腰のホルダーから抜き出したのは、ナイフというには長く、剣というには短い――対スライムタイプ用の高振動ブレード。
刀身の高熱と超振動で、粘液のボディをも焼き切り、再生不可能なダメージを与えるという専用武装である。
ナギはその刃を翻し、自身の体に絡んでいる触手をズバズバと切断した。
「頼んだぞ、ツカサ!」
さらにナギはブレードを振りかざして、ツカサの体に絡んでいる触手をも切り裂く。
自由を取り戻したツカサはすかさず火炎放射器を構え――正面のジェシアに、激しい業火を浴びせ掛けた。
「ふふっ……」
そんなものが通じるかとばかりに、軽く右手をかざすジェシア。
たちまち彼女の前には粘液の壁が形成され、業火を防ぐ盾となった。
ツカサの浴びせ掛けた火炎は粘壁に遮られ、しゅうしゅうと周囲に水蒸気と煙が立ち込める――
ジェシアの視界が阻害されたその瞬間、彼女は思わぬ方向から男の声を聞くこととなった。
「人間が、いつまでも――」
「……!?」
背後――完全に知覚から外れた方向。
そう。その瞬間、ジェシアは油断していた。
相手は、ちっぽけな人間だと。
何も出来ないエサだと――そう思い込んだ。
確かに、人間は弱い。
しかし、人間は弱いことを知っている。
強者の奢りを、決して見逃しはしない――
一瞬の視界不良に紛れて、ナギはジェシアの目前にまで踏み込んだのだ。
「――餌のままでいると思うな、化け物!」
まるで疾風のような足運び、そして必殺の気迫。
ナギの構えたブレードが一閃し――ジェシアの体は、腹のあたりから横一文字に一刀両断された。
「やったか……!?」
下半身から断ち切られ、宙に舞うジェシアの上半身――
それは、ぐにゃり……と空中で溶け、スライム状になってしまう。
その直後、再び空中で人型が形成された――しかも、今までより一回り以上も小さい少女型。
ジェシアの美貌はそのままに、少女の頃に若返ったかのような外見だ。
「な……!」
路上に残された下半身の方も、いつしか少女の姿に変形していた。
ジェシアの肉体は二つに分断され、それぞれの半身が少女の姿となったのだ。
生物としての常識を超えたジェシアの挙動に、ナギは戦慄するばかり。
こんな奴を、一体どうすれば倒せるのか――
「ふふっ……」
空中で少女の姿になったジェシアは、着地際にナギの頭部へと両足を絡ませてきた。
「ぐっ……」
粘状の太腿に頭を挟み込まれ――そして彼の腰には、ジェシアの下半身だった少女が抱き付いてくる。
そのままナギは路上に押し倒されてしまい、その体の上に二人の少女ジェシアがのしかかってきた。
「あははは……」
「ふふっ……」
彼の顔面は少女の尻の下敷きとなり、顔面騎乗の体勢にされてしまう。
下半身にも、もう一人の少女ジェシアがすがりつき――そして、そのフェイスマスクやボディアーマーを溶かし始めた。
「くっ、畜生……」
あらわになったナギの素顔は意外なほどに若々しく、成人を間近に控えた青年のもの。
本来なら、この遊園地で恋人と遊んでいてもなんらおかしくはない年齢だった。
そんなナギを見下ろし、二人の少女は無邪気ともいえる笑みを浮かべる。
「ふふ……頑張ったね……」
「ご褒美をあげるね、お兄ちゃん……」
「うぐっ……!」
顔の上に跨っているジェシアが、ぐりぐりと彼の鼻や口に陰部を押し付けてきた。
その形状は、少女の陰部そのもの――むわっとした淫臭と、独特の湿気が立ち込める。
さらに人間のものとは違い、少女のそこは異様なまでに粘度を帯びていた。
ねとねとと粘液が糸を引き、まるでナメクジのような粘質。
「ぶ……うぅ……あぐ……」
それを顔面にジュルジュルと擦り付けられ、ナギは抵抗の意志を失っていく。
少女ジェシアは巧みに腰を動かし、その陰部をじっくりと彼に味わわせた。
ナギの肉棒はみるみる固くなり、あっという間に最大限まで張り詰めてしまう。
「あは……大きくなった……」
それを見て、目を細めるもう一人の少女。
彼女はナギの腰の上にのしかかり、そして馬乗りになった。
何の遠慮も躊躇もなく、そのゼラチン質の股間に亀頭を押し当て――
……ぬるん。
「あ、あぐぅぅぅぅぅぅ……!」
異様なまでに粘度を帯びた膣内に、彼の肉棒は呑み込まれてしまった。
少女の内部は、たちまちナギをとろけさせるほどのもの。
小さな体だけあって、中は非常に狭く――粘液が絡み付くような、特有のヌルヌル感があった。
それはヒクヒク収縮し、みるみる彼を快感に浸らせていく。
弾力に満ちたプルプルのゼラチン質で締め付けられたかと思ったら、ナメクジのような質感の肉壁ににゅるりと擦られ――
その甘美な感触に、ナギはあっという間に精を漏らしていた。
「あ、あぁぁぁぁぁ……!」
「うふふふ……」
「漏れちゃったね……生命のエキス……」
その腹で精液を受け止め、搾り出しながら――ジェシアはナギを見下ろしクスクスと笑う。
そして、さらに激しく腰を揺すり、粘状の股間に咥え込んだペニスを責め始めた。
「あぁぁぁぁぁっ……!」
プルプルと粘状の体や腹が震え、その腰の動きは凄まじい振動をもたらす。
ぐちゅぐちゅの粘液内が、ペニスで掻き回される――いや、ジェシアの意志で掻き回させられているといった方が正しいか。
少女の腰がずちゅずちゅと振り回されるごとに、じゅるりと跳ねるごとに、包まれたペニスが揉みくちゃにされた。
ぷるんぷるんと弾力に満ちた締め付け、そしてじゅるじゅると蠢く流動感、ヌメヌメの感触――
それらが一体になって、ナギの肉棒を嫐り抜き――そして、たちまち二度目の射精へと導いてしまう。
「あ、あぐぅぅ……! うぁぁぁぁぁ……!」
「えへへへ……っ」
それでも少女は、腰を振るのを止めてくれない。
このまま、連続で射精させる気だ――
さらに口と鼻を塞いでいるジェシアの陰部も、甘ったるい女の匂いを濃くさせる一方。
少女二人はナギを執拗に責め続け、延々と陵辱し続ける。
もはや彼に抵抗の気力はなく、ジェシアが与えてくれる最高の快感に浸るのみ――
そして、残る一人の隊員――ツカサの姿は、とうに大通りから消え失せていた。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
遊園地地下の排水通路を疾走していたのは、たった一人生存した隊員――ツカサ。
あの時、残り二人になった時点で――隊長のナギは、彼を逃がすことにしたのだ。
どのみち全滅は避けられないし、囮として残る側にも相当の技量は必要――
以下のことを合わせて考えると、場に残って怪物の注意を引き付けるのは隊長しか無理。
必然的に、自分が逃げ延びる側となるのである。
「はぁ、はぁ……くそっ……!」
本当は、あの場に残って仲間達の仇を討ちたかった。
勝てないまでも、せめて最後まで戦い抜きたかった――が、隊長はそれを許さなかった。
温情を受けたからではない、本部に情報を伝える生還者が必要だったからだ。
「くそっ、信じられない……なんて化け物だ……」
四人で編制された『化け物狩り』チーム二つ分を、あっという間に壊滅させた――その能力は計り知れない。
あれでも、相手はほとんど本気を出していなかったことはツカサにもはっきり分かった。
淫魔は人間を舐めている――など、とんでもない話だ。
まるで逆、こちらが淫魔を舐めきっていた。
我々人間の認識は、根本的にズレていたのである。
それを伝え、訴えるために――自分は生かされたのだ。
あんな奴が存在するなら、人類は認識を改めなければならないだろう。
「はぁ、はぁ……、もうすぐか……」
突入前に覚え込んだ地図に従い、地下排水溝を進むツカサ。
このまま前進すれば、遊園地の外まで達するはずだ――
「ふふふ……」
「な……!?」
狭い排水通路に、立ち塞がるように現れたのは――大通りで見た、ジェシアの姿だった。
白いドレスに身を包み、禍々しい笑みを浮かべ――全てがお見通しのように、彼女はそこに立っていたのだ。
その威圧感を前にして、ツカサはへなへなとその場にくずおれてしまう。
なまじ生への展望が見えただけに、その絶望と落胆は相当のものだった。
「あ、あぁぁ……」
やはりこいつは、全く次元の異なる存在。
今まで自分達が相手をした怪物達とは、まったくレベルが違うのだ。
そして自分も、ここで餌食にされてしまう――その絶望感は、彼から戦意を奪い去っていた。
「ふふ、ふふふふ……」
ジェシアは自らのスカートに手を伸ばし、尻餅をつくツカサに中を見せ付けるように、ゆっくりとまくり上げていく。
「あ、うぁぁぁ……」
スカートの中に足などはなく、そこに詰まっていたのはジュルジュルとうねる粘液のみ。
またスカートの内壁は粘膜状になっており、まるで軟体生物の消化器官のようだ。
ぼたぼたぼた……と、スライムが涎のように彼女の足元へ垂れていく。
あの中に自分も呑み込まれてしまう――そう考えただけで、恐怖と期待が沸き上がってきた。
そう、期待――少なくとも彼は、快感への期待を抱き始めていたのだ。
「ふふ、あははっ……!」
彼の期待感を敏感に感じ取ったジェシアは、ひときわ妖艶に笑う。
そして――そのスカートの中から、ずるりと一本の腕が這い出してきた。
それは、ピンクの粘液で形作られた女の細腕。
「ひっ……!?」
じゅるじゅると粘液の糸を引き、スカートから蛇のように伸びてくる腕。
それは一本だけではなく、わさわさとスカートの中から無数に這い出てくる。
まるで、蛇の集団が尻餅を着くツカサへと襲い掛かるかのように――
「う、うぁぁぁぁ……!」
そのまま逃げることもできず、ツカサは腕の一本に足首を掴まれていた。
ジェシアの掌と接触した黒の特殊ブーツは、たちまちしゅうしゅうと溶けていく。
さらに無数の腕が、ツカサの体に襲い掛かっていった。
「ひぃっ……あ、あぁぁぁぁぁぁ――!!」
残るもう一方の足首、両腕、肩、太腿、頭部、腰、胸、脇腹――
ジェシアのスカートから伸びた無数の腕は、わきわきと余すことなくツカサの体を掴んでいく。
装備や衣服、下着までをしゅうしゅうと溶かされ、その体が強引に押さえ込まれ――
たちまちツカサは、スカートから伸びた無数の腕に全身を封じられてしまったのだ。
ぐいっと足をM字状に開かされ、屈辱そのものの体勢で。
ぬるぬる……ぬめぬめ……
じゅるるるる、にゅる、にゅるにゅる……
「や、やめろ……あぅぅぅぅ……」
無数の腕はツカサの体を掴むだけではなく、そのぬめった掌を彼の全身に這わせ始めた。
それは愛撫そのものの動きで、じっくりとツカサの全身を撫で回す。
ヌルヌルの感触を与えながら、体の隅々に至るまで――まるで、くまなく洗っているかのように。
ただし、そのターゲットから股間のみを的確に外していた。
ジェシアにとって、これはただの前戯なのだ。
じゅっく、じゅっく……
ぬるり……ぬるぬるぬる……、にゅる……
「あひぃ……! あ、うぅぅ……」
体中を弄ばれ、ツカサはくすぐったいような快感に悶える。
その股間では、肉棒がすでにそそり立っていた。
「くすっ……」
あえなく臨戦態勢になってしまったペニスを見下ろし、ジェシアは笑みをこぼす。
そして、スカートから這い出した腕の一本が――いよいよ、彼の股間に襲い掛かった。
ねちゅ……と粘液にまみれた掌――いや、粘液そのものの掌が肉棒を握ってくる。
「あ、あぅぅ……」
その粘った感触だけで、ツカサは表情を歪めていた。
そのまま掌がペニスを握り、激しく上下に扱きたててくる。
ぬちゅぬちゅ、ぬちゃにちゃと、粘液特有のぬめりと弾力を存分に与えながら――
ぬちゅ、ぬちゅ、にゅこ、にゅちゅ、にゅこ、ぬちゅ……
「あう……! あ、あぁぁぁぁぁ……!」
リズミカルに扱きたてられ、快感はあっという間に全身を駆け巡り――
あまりにもあっけなく、ツカサは射精まで追い込まれてしまった。
ドクドクと溢れ出た精液は粘液の腕の表面に降りかかり、たちまち吸収されていく。
そしてビュルビュル精液が迸っている間も、ジェシアは責めを緩めはしない。
「あ、あひぃ……! あが……あ、あぁぁぁぁぁぁ……!!」
むしろスピードを増してペニスを扱き抜き、苛烈なまでに刺激を与える。
射精中――そして射精直後の肉棒を嫐られるのは、男にとってかなり強烈な責め。
それを容赦なく行われ、ツカサは身を反らせて悶え狂った。
「ふふ、もっと……もっと生命を搾ってあげる……」
さらに、それでは足りないとばかりにスカートから二本の腕が伸びた。
カリの部分を執拗に扱かれていたのに加え、サオの部分と亀頭部をも新たな手で覆い込まれてしまったのだ。
「あ、あひぃぃぃ……!! あ、あぅぅぅ……! あ、あぁぁぁぁぁ――!!」
サオとカリがそれぞれ別の腕でしごかれ抜き、亀頭は撫で回されるように刺激される――
その壮絶な手淫に、ツカサは悲惨なまでによがり狂うしかなかった。
尿道口からは何度となく精液がびゅるびゅると溢れ、もはや元栓が緩んだような状態。
「ふふ、ふふふふふ……」
さらに二本の腕が伸び、彼の陰嚢とアナルに襲い掛かった。
陰嚢は柔らかい掌に包まれて揉みしだかれ、アナルにもにゅるにゅると細い指が出入りする――
「あぅ、あぁぁぁぁぁぁ――ッ!!」
押さえ込まれた体を痙攣させながら、ドプドプと精液を漏らし続けるツカサ。
ひたすら精液を搾り取るためだけに、股間を粘液の腕で嫐り尽くされ、蹂躙される屈辱。
しかし、それを恥じ入る余裕さえないほど苛烈な連続絶頂。
「ふふふ……、あははははは……」
嗜虐に満ちたジェシアの眼差しを受けながら、じっくりと陵辱され――
ひたすらにジュルジュルぐちゅぐちゅと扱き抜かれ――
出しても出しても、全く容赦せずに肉棒をこね回し――
「あ、あぁぁぁ……」
そして数十回の射精を体験した頃には、肉棒が痙攣するだけで精液が出なくなってしまう。
ツカサは、ジェシアによって徹底的に精液を搾り抜かれてしまったのだ。
その精は涸れ果て、精神までも陵辱されてしまい――もはや彼は、快楽に溺れてしまった。
「あぅ……うぅぅぅぅ……」
「ふふっ……涸れ果てた……あはっ、あははははは!!」
哄笑するジェシアのスカートの中から、さらに無数の腕が伸びた。
それはツカサの体に群れ寄り、持ち上げ――スカートの中へと引き込んでいく。
「う、うぁぁ……!」
ずるり、ずるり……と引き寄せられていき、彼は恐怖とも歓喜とも取れる喘ぎを漏らした。
たくし上げられたジェシアのスカートはぱっくりと開き、まるで大口を開ける大蛇のよう。
その中では、じゅるじゅると大量の粘液が蠢いて、ツカサを迎え入れるのを待っているかのようだ。
あのスカートに包まれたら、どうなるか――十分に、ツカサは理解していた。
それでも、あの中に入りたいという欲求が沸き上がってくる。
もっとも、もし彼が拒んだところで、その結果は変わらないが。
「あ、あ、あ、あぁぁ……」
じゅるじゅるじゅる……
スカートに引き込まれながら、ツカサは泣き笑いのような表情を浮かべた。
足に、太腿に、腰に――むぐむぐとスカートに食べられ、呑まれた部分はじゅるじゅるの温もりに包まれる。
「あ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――!!」
そしてひときわ大きい快楽の悲鳴を残し、ツカサの体はじゅぷり……とスカートに呑み込まれてしまった。
「ふふっ……」
彼の体をスカートに収めた後、ジェシアは両手でたくし上げていたスカートの裾を離す。
ツカサを呑み込んだまま、ふぁさり……とスカートが垂れ落ちる――
その動作は、大蛇が獲物を呑み込んで口を閉じたも同然だった。
ぐちゅる……じゅるり、じゅるじゅるじゅる……!
ぐっちゅ、ぐっちゅ、じゅるるるるるるり……!!
ぬちゅ、ぬちゅ、ぬちゅぬちゅぬちゅ……!
スカート全体がもごもごと蠢いて、ツカサの体をじっくり咀嚼していく。
粘液で包み、たっぷりといたぶり、ねっとりと溶かし――
細胞単位で陵辱し、取り込んでしまうジェシアの溶解責め。
それは、細胞の一つ一つで射精するのと同等の破壊的な快楽だった。
ぐちゅ、ぐちゅ、ぐちゅ……ねちゅねちゅねちゅ……
ぐちゅる……びちゃ、びちゃ、じゅるるるるる……!
「あ……ぁ――ぁぁ――」
ジェシアのスカートの中でよがり狂いながら、ツカサはじわじわと溶かされていく。
その肉体も精神も生命も、丸ごと啜り尽くされながら――
そして彼も、ジェシアと一つになるのだ。
ぐちゅ、ぐちゅ、ぐちゅり……
じゅる、じゅるる――ぐちゅっ。
激しく蠢いていたスカートの揺れが収まり、そして嵐の後のように静まり返る。
「ふふ……あはははっ……」
また一人、ひときわ優秀な遺伝子を持つ男を捕食できて――ジェシアは、非常に満足だった。
意図的に残した三人を除き、この餌場の生命はまとめて食らい尽くしたことになる。
数千人の男達から搾り取った生命の素――精子も一つの生命として数えると、啜った生命は兆の単位を超えるほど。
「あはっ、あははははははははははは……!」
その肉体に無限にも近い生命を宿し、ジェシアは哄笑した。
ナギは、彼女を群体生物だと推察した――その推測は、見事に大正解。
そして彼は、司令塔である生命を潰せば、群体は崩壊すると推察した――その推測は、まるで見当違い。
ジェシア・アスタロトという存在に、本体とそれ以外などの区別はないのだ。
ここにいるのもジェシアなら、生き残った男達を嫐っているのもジェシア。
遊園地に満たされた粘液の海もジェシアなら、それに取り込まれた者達もジェシア。
その全てが彼女自身であり、全てがジェシアという群体を構成する生命。
司令塔や本体などの区別などなく、『ジェシア』に属する全ての生命がジェシアなのである。
「ふふふっ……夢から醒める時間。そろそろ宴は終わり――」
いよいよ、この狂宴を終わらせる時。
そして、まだ取り込んでいない獲物は三人。
勇気に満ちた者、卑怯者、そして飛び入りの屈強な軍人。
その三人を弄び尽くした後、この餌場を後にするとしよう――
そう思案しながら、ジェシアはいよいよ最後の締めに取りかかった。
「うぁ、あぁぁぁぁ……」
「ふふっ、ふふふ……」
人間の男と粘体の女は、地下設備室で淫らに絡み合っていた。
互いに立ったまま何度も情を交わし――そして今は、三人に増えたジェシアに揉みくちゃにされている。
彼女達は女の姿を保ったまま、勇二の全身にねっとりと絡み付いているのだ。
三人がかりの粘状愛撫を受け、彼はすっかりとろけきっていた。
ぐっちゅ、ぬっちゅ、ぐっちゅ……
「うぁぁぁぁ……あぅ……」
「ふふっ……もっと搾り出してあげる……」
そして今、勇二のペニスはジェシアの手の中で可愛がられていた。
いや、肉棒を掌で握る――というよりも、掌の形をした粘液を絡めるという表現が正しいかもしれない。
その掌はにゅるにゅるととろけ、時に肉棒をぐちゅぐちゅと覆い包んだりと変幻自在な動きを見せていたのだ。
「あ、あぁぁぁぁぁ……」
ぬめった掌で包まれ、しこしこと動かされ、勇二は甘い声を漏らした。
ぐっちゅぐっちゅと泡立ち、波打ち、粘り着き――
それは、普通の手コキとは全く異なるもの。
粘液にまみれた手淫は、あっという間に彼を限界まで追い込んでしまう。
「あぅ……もう、出るぅ……!」
ドプドプと精を漏らしても、粘液まみれの手コキは終わらない。
そのままグチュグチュと粘液の中で撹拌され、包み込まれ――淫らな責めを受け続けるのだ。
くちゅ、ぬちゅ、にちゅ、ぐちゅ……
「あぅぅぅぅ……」
喘ぎを漏らす勇二の口を、別のジェシアがヌルヌルの唇で塞いできた。
甘い粘液がだらだらと口内に流れ込み――たちまち彼は、陶酔に浸ってしまう。
さらにもう一人のジェシアは後方から勇二を優しく抱きすくめ、胸にヌルヌルの手を這い回らせる。
同時に、背後から首筋を舐めたり、耳穴を舐め回したりといった愛撫を浴びせ掛ける。
その粘状の舌は自在に伸び、何股にも分かれて様々な箇所を撫で回しているのだ。
じゅく、くちゅ、にゅる、ぬるるる……
「ん、んんんんん……」
美女と甘いディープキスを交わし、背後からも責められながら――そのペニスを扱かれ、精液を搾り取られる。
それはあらゆる男にとって、天国ともいえる快感。
勇二のように意志の強い男ですら、肉体も精神も溺れてしまうほどの快楽だった。
ぷにゅ、くにゅ……ふにゅっ。
「んんんん……んんん……?」
不意に、ペニスを包む感触が変化していた。
いつしかジェシアは、その豊かな胸で勇二の肉棒を責めていたのだ。
ぷるぷるの弾力を備えながら、その谷間はヌルヌル。
挟み込まれたままプルプルと乳房を動かされるだけで、にっちゃにっちゃと粘液が絡み付いてくる――
その圧迫感と締め付け、密着感とスライム特有の粘りは、あっという間に勇二を屈服させた。
「んあ……ん、んんん……」
ジェシアの胸に埋もれたペニスが快感の脈打ちを始め、ドクドクと白濁液が溢れ出す。
「ふふっ……」
その胸で脈動を感じながら、妖しい笑みをこぼすジェシア。
彼女はぎゅぅぅぅ……と胸を寄せ、きつくペニスを締め付けてきた。
「あ、あぁぁぁぁぁぁ……」
乳房に密着し、食い込み――時にはその中にめり込み、絞られるような刺激がペニスを襲い、勇二は身をよじる。
さらにジェシアは弾力に満ちた乳房を激しく揺すり、ペニスを揉みくちゃにする刺激を与えた。
たぷたぷと振動が伝わり、ねっとりとぬめった乳肉にぐにゅぐにゅ揉み潰され――
「あぅ……また……あ、あぁぁぁぁぁ――」
さっきの射精から間もないうちに、もう一度絶頂を体験してしまう。
ドクドク精液を漏らすペニスを、容赦なく挟み込み、胸で揉みしだくジェシア。
粘状の肉体で行うパイズリは、徹底的に勇二の精液を搾り出した。
ぬぷぬぷ、ぬちゃぬちゃという妖しい音と共に、彼の精子が吸い取られていく。
搾り取られた精液は、小さな小さな生命の塊としてジェシアに取り込まれていく――
「う、あぁぁぁ……」
自分がされていることを全く理解することも出来ず、勇二はただ快楽に酔った。
何度も何度も射精させられ、股間の快感に身悶えながら。
「ふふ……気持ちいい? また愛し合いましょう……」
そしてジェシアは――ひとしきり精を搾り出した後で、パイズリを中断する。
勇二の体に絡む肉体がぐにゅりと変形し、瞬時に騎乗位の体勢となり、そして――
あっという間に、そそり立ったペニスがジェシアの股間に埋もれてしまった。
「あ……あひぃぃ……!」
目を白黒させながら、突然の快感に喘ぐ勇二。
さっきも一対一で味わった、ジェシアと交わる快感――
それを、今度は三体のジェシアにまとわりつかれながら与えられていた。
くちょくちょ……とジェシアの内部が蠢き、ペニスを濃密に揉みしだいてくる。
ぐちゅっ、ぐちゅっ、ぐちょっ……!
「あ、あぁぁぁぁ……! あぅぅ……!!」
ジェシアはリズミカルに腰を上下させ、粘体に包まれたペニスはぬめりと弾力の中で翻弄され尽くした。
彼女の腰から下はドロドロのスライム状と化し、跨られているというよりは覆い包まれている状態。
いつしかジェシアの肉体は床を満たしているスライムと結合し、彼の下半身を覆い尽くしていたのだ。
そして上半身も残る二体に前後から抱きすくめられ、勇二はジェシアの中に沈み込んでいた。
これが、ジェシアとの情交。
取り込まれているのと限りなく紙一重な、男と女の性の交わり。
じゅるり……ぐちょぐちょ、じゅるるる……
ぐっちゅ、ぐっちゅ、ぐちゅ……
「あぁ、きもちぃぃ……」
ジェシアの肉体がジュルジュルと流動し、勇二の全身を刺激する。
彼はいつしかジェシアと愛し合っているような思いに囚われ――
気が付けば、ドロドロの肉体にたっぷりと精液を注ぎ込んでいた。
「ふふ、うふふ……」
慈しみを込めて彼を抱きながら、ジェシアはその粘肉で精を受け止める。
生命の素がドクドク流れ込んでくるのが分かる――
その精液に含まれる精子一匹一匹を、じっくりと取り込んでしまうのだ。
この行為は勇二への褒美であると同時に、精子を搾り取るためのものでもあった。
「もっと、もっと出しなさい……涸れ果ててしまうまで……」
ぐちゅぐちゅぐちゅ、とジェシアはペニスを包んでいるスライムを蠢かせる。
粘度を変えてまとわりつかせ、もちもちの質感に変えて締め付け、くにゅくにゅと扱きたて――
粘状のボディが生み出す多彩な責めに、勇二はひたすら精を漏らすのみだった。
何度も何度も、ジェシアに求められるままに――
じゅくり……じゅる、じゅる……
ぐちゅぐちゅぐちゅ……ぐちゃぁ……
「あぅ、あぅぅ……」
もう、何十回目の射精になるだろうか――びゅるびゅると迸る精の量も、徐々に少なくなってくる。
淫魔と交わることで男の精力は活性化されるが、それでも人間である以上、回数に限界はあるのだ。
「ふふ……あなたの生み出す小さな生命、もう尽き果てた?」
「う、あぁぁぁぁ……」
ジェシアの蠢きの中で、ペニスがびくびくと脈動する――
しかし尿道口から染み出したのは、精子のほとんど含まれていない少量の液。
それを最後に、もう絶頂とともに射出されるものは何もなくなってしまった。
射精の際も肉棒がひくひく痙攣するだけで、何も出なくなってしまったのである。
「あぁぁぁ……」
ジェシアに溺れながら、力なく呻く勇二。
搾れるだけ精を搾られ、精嚢に溜まった分を全て汲み上げられてしまったのだ。
もう、彼の精液は空っぽ。一滴たりとも残っていない。
ペニスを通じて、ジェシアに全て搾り取られたのである。
精子を根こそぎ搾り尽くされてしまうという、男として最高の体験をした彼――
勇二を待つ最後のステップは、もはやジェシアと一つになることだけ。
今までは互いの股間を通じて一つになっていたが、これからは本当の意味で一つになるのだ。
「ふふ……、尽きたのね……」
自らの体の中で恍惚に浸る勇二を、ジェシアは慈愛の目で眺める。
そして――いよいよ、最後の『処理』が始まった。
じゅくり、じゅくり……じゅるじゅる……
うじゅ、うじゅるじゅるじゅるじゅるじゅる……じゅるるるっ。
「ふふっ。一つになりましょう……」
じっくり、じっくりと、ジェシア三体分の粘体が混じり合って勇二の体を覆い包んでいく。
彼の体を形成する細胞の一つ一つまで、ジェシアの粘液が優しく包んでいくのだ。
そのまま中に取り込み、一体化していく――それは、細胞レベルでの快感。
普通に生きていれば絶対に味わえないもの、代償に生命を要求される桃源郷の悦楽。
「あひぃ……! い、あぁぁぁぁぁぁぁ!!」
勇二はアメーバ状のジェシアにゆっくりと取り込まれながら、強烈な快楽に身をよじる。
「ふふふふっ……あははっ」
特に勇二には、ひときわ愛のこもった同化が行われた。
それは甘ったるく、生温く、ねっとり蕩けさせる粘状愛撫。
ジェシアに大量の生命を送り込み続けたペニス――そこは、特に入念に愛し尽くされた。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――ッ!!」
身も世もない快感に勇二はよがり狂い、意識がとろけていく。
細胞の一つ一つが犯され、感じさせられ、屈服させられ、支配される――
それは、例えようもない至福の感覚を呼び起こした。
その幸福に精神がじんわりと溶け――さらに、肉体そのものもドロドロに溶かされてしまう。
そして、ジェシアと一つになっていく――
「ぁぁぁぁ……」
ジェシアに溶かされながら、勇二は快楽の掠れ声を漏らした。
これが、『勇二』という個体が残した最期の呻き。
ジェシアの中で勇二は淫らに溶かされ――そして、彼女と一つになった。
「いかせてぇ……いかせてぇ……」
涙や涎、そして先走り液を垂れ流しながら、啓介は延々と懇願し続けていた。
あれから数時間――緑は、彼の亀頭部分にスライムをぽたりぽたりと垂らし続けていたのだ。
亀頭粘膜をヌルリと滑る感覚だけを与え、ペニスにそれ以上の刺激は与えない――まさに、執拗な生殺し。
その両肩から先は二人の女体の中に沈み込み、上半身全体がねっとりと愛撫されている。
乳首をくちゅくちゅといじり、脇の下をヌルヌルと撫で上げ――
その心地よい刺激も、生殺しの材料にしかならなかった。
「いかせてぇ……あ、あぅぅ……みどりぃ……」
「……」
恋人の醜態に冷たい視線を送りながら、緑は亀頭にスライムを少量ずつ垂らし続ける。
もはや、啓介のペニスはピンクのスライムと垂れ流した先走り液でドロドロ。
のたうつようにビクビクと脈打ち、尿道口からだらだらと涎を垂らし続けていた。
そんな責めが、もはや数時間。
啓介は気も狂わんばかりに悶え苦しみ、徹底的に追い詰められていた。
「み、みどり……ごめん、みどりぃ……」
「……」
緑は、少し呆れた顔を浮かべた後――ふぅ、と息を吐いた。
膨れていた顔が、少しは和らいだ気がする。
「み、みどり……?」
それでも、彼女は冷たい目のまま――しかし、スライムを亀頭に垂らすのはやめたようだ。
腕を引っ込めると、今度はその右脚を軽く上げた。
それはやはり、ピンクの粘液で構成された半液状の足。
「……」
その柔らかそうな足を、啓介の股間にぎゅむっ……と置いたのだ。
「あ……あひぃ……!!」
散々に焦らされたペニスが、ヌルヌルの足の裏でむにゅっと踏みしだかれる。
軽く体重を載せられ、柔らかく圧迫される。
足の裏はぬめっていながら、その質感はゼラチンのごとくプルプル。
散々に焦らされきっていたペニスは、ほんの少しの刺激でも歓喜してしまう状態。
そこまで追い詰められた股間を、半粘状の足で踏まれる――それは、あっと言う間に昇天してしまうほどの快感だった。
「あぅ……う、うぁぁぁぁぁぁぁぁ――!!」
緑の足の下でペニスがびくびくと脈動し、白く濁った液体がドクドクと溢れ出す。
何時間も焦らされたことにより、それは数回分とも思えるほどに大量。
「ふぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
そして、その快感も相当のものだった。
びゅくびゅくとペニスが脈打ちするたびに、魂まで抜けてしまいそうな放出感が襲ってくる。
緑の足裏はグリグリとペニスを踏みにじるように動き、さらにだめ押しの快感を与えてきた。
「あ、あぅぅぅぅぅぅ……」
極度の快感を伴う脈打ちは十数回に及び、信じられないほど大量の白濁が迸っていた。
緑に踏まれた瞬間の、あっという間の射精――それは、生殺しに終止符を打つものだったのである。
「……」
自らの足裏を汚す白濁をヌルヌルと踏みしめ、緑は恍惚に浸る啓介を見下ろす。
その顔は、生殺し責めを続けていた時よりは和らいでいるものの――それでも、彼を許していたとは思えない。
ぬちゅ……とペニスから足を離すと、粘液と白濁の糸がべっとりと引いた。
そのまま緑は腰を屈め、まだまだ萎える気配のないペニスを覗き込む。
じっくりと顔を寄せ、その冷静な目で観察するように――
「み、みどり……?」
「……」
彼女の控え目な唇から、ちろり……と舌が覗く。
やはり半粘状の、唾液とも粘液とも取れない液体がべっとりと滴ったヌルヌルの舌。
それがずるりと唇から這い出し、通常の人間では絶対にあり得ない長さまで伸びた。
啓介の両足の間に屈み込んでいる体勢で、彼の股間に舌先が届くほどに――
そして、ぬめった舌先が、れろり……とペニスを舐め上げたのだ。
「……ひゃっ!」
その思わぬ感触に、啓介はみっともない声を上げてしまう。
緑の舌はざらざらしていながら、粘状のヌメヌメ感をも備えていた。
まるでナメクジが絡み付くように、糸を引いてペニスにまとわりつく。
「な、何を……緑……」
れろり……れる……、べちゃぁ……
「あひぃぃぃぃ……」
長く伸びた緑の舌は、ねっとりと亀頭やカリの部分を舐めてきた。
最初はそろそろと、肉棒の表面を這い回るように。
そうしてしばらく舐め――徐々に、べっとりと舌の表面を貼り付かせるように舐め上げる。
「あ、あぅ……! あ……!」
生温くぬめった舌が肉棒にべとりと貼り付くたび、啓介は快感で体を震わせた。
彼の反応を確かめるような動き――
そればかりか、自分の舌の動作を確かめているかのようにも見える。
緑にとって、この粘液の肉体はジェシアから授かったばかり、まだ慣れないものなのだ。
べちゃ……びちゃ……ぬるぬる……
れるり……れる、びちゃ……
「ひぁ……! あ……!」
それでも徐々に舌の動きが滑らかになっていき、ねっとりと啓介のペニスを這い回った。
じゅるじゅると蠢き、柔らかく密着するように。
ぎゅるりと巻き付き、締め付けるように。
時には舌がドロリと溶け、粘状になりながら絡み付くように――
それは、人間の口淫では決して生み出せないような快感。
自在に蠢く粘状の舌で、肉棒を弄ばれる――恋人から与えられる人外の快楽に、啓介が耐えきれるはずがなかった。
「あ……! 出るぅ……! みどりぃ……! あぁぁぁぁ……!」
どくん、どくん、どくどく……
あっという間に、啓介は緑の舌へと精液を撒き散らしていた。
「……」
射精を確認した緑は、ペニスに舌を絡めたままジュルジュルと蠢かせる。
それは、普通に舐められるのとは全く異質のヌメヌメ感。
肉棒を汚す精液を、根こそぎ舐め取ってしまう動作だった。
「あぅ……あぅ、あひぃ……!」
射精直後のペニスで味わう責めに、身をよじって応える啓介。
そのみっともない姿を見て、両脇の二人がクスクスと笑っていた。
「あ、あぁぁ……」
「……」
そして、撒き散らされた精液を完全に舐め取った後――
いよいよ緑は、その口でゆっくりとペニスを咥え込んできた。
くぷ……、ぬるん……!
「あ……! ひ、ひぃぃぃ……!」
緑の口内はやはり、人間のものとは全く異質の快感。
柔らかく、ヌメヌメしていて、狭く、そしてぬるぬると濡れた口穴――
そんなものに深々と咥え込まれ、啓介が長持ちするわけがなかった。
緑は啓介の顔を見上げ、口内をヌメヌメと蠢かせる。
粘状の舌をまったりと絡め、じゅるじゅると粘液にまみれさせながら――
ぐじゅ……
じゅるり……じゅるるるるる……!
「あ、あぅぅ……あ――ッ!!」
みっともない嬌声を上げながら、彼は咥えられて間もなく射精してしまった。
迸った精液をむぐむぐと咀嚼し、快楽に歪む健太の顔を見上げながら――
なおも緑は、口内でグチュグチュと粘状愛撫を続ける。
「あ……あひぃ……みどり……ちょっと休ませて……」
身をよじらせながら快感に打ち震える啓介の懇願を無視し、緑はなおも口淫を続けた。
口内で吸い付かれ、ペニス全体に粘液が密着してくる感触。
亀頭には舌がじゅるりと巻き付き、じわじわと締め付けられている。
さらに緑は、口内全体でピストンさせるように顔を激しく揺さぶってきた。
じゅぼ、じゅぽ、じゅぼ、ずちゅ、じゅぼ……
「みどりぃ……、あ、あぁぁぁぁぁぁ……!!」
「ん、んん……」
上気した表情で、鼻に掛かった声を漏らす緑。
ぐちゅぐちゅと口内を蠢かせ、ごっぽごっぽと上下させ――
口の中のぬめった粘膜がペニスに擦れ、ヌルヌルの感触が存分に与えられる。
カリがぐちゅぐちゅと粘道を往復させられ、腰が崩れるような快感を生み出す。
そんな風にじっくりと頬張られ、たっぷりと粘状の刺激を与えられ――
「あ、あぁぁぁぁ……すごいよ、みどりぃ……!」
そして啓介は、口内二度目の精液を迸らせていた。
放たれた精液は、あっという間にゴクゴクと飲み干されてしまい――そして、口からペニスを解放する緑。
その口と肉棒の間には、ローションのようにねっとりと粘液の糸が伝う。
「……」
やや上気した表情の緑は、ゆっくりと啓介の腰を跨いできた。
その半粘状の体にも、股間部分にはしっかりと女性器が備わっている。
そこからは、無数の糸を引いて粘液がだらだらと垂れていた。
「あ、あぁぁぁぁ……みどりぃ……」
これから、あの穴に挿入させてもらえる――その悦びに、啓介は打ち震えた。
生殺し責めの際、指にじっくりと与えられた粘液の刺激を、いよいよ肉棒にも与えてもらえるのだ――
身をわななかせ、啓介はのしかかってくる緑を見上げていた。
まるで、ご褒美の餌を前にした飼い犬のように。
「ふふっ……」
以前は見せなかったような、淫らな笑みを浮かべる緑。
そのまま彼女は啓介の腰にまたがり、その入り口に亀頭をあてがう。
「あうっ……」
ぬるん……とした感触に、啓介は表情を歪ませた。
のしかかってくる緑の体はぷるぷるで、それでいてねっとりと粘っている。
じんわりと温かく、上に乗られているだけでも心地よさでとろけてしまいそうなのに――
今から、男の最も敏感な部分が、彼女の中に入ってしまうのだ。
期待の視線を妖艶な笑みで受け止めた後――緑は、ゆっくりと腰を沈めてきた。
ぬるるるるるるる……
ゼラチン質にも似た粘体で形成された膣穴に、啓介の肉棒が埋まっていく。
「あぅっ……! ひぃっ……!」
そして奥まで沈み込んだ瞬間、啓介は上擦った声を漏らしていた。
ペニス全体にみっちりと密着してくる締め付け。
ひくひくと収縮にも似た蠢きが与えられ、粘液に満ちたヌメヌメ感が異常なほど心地よい。
それに加え――膣壁そのものが粘体であり、ゼラチン質の感触が底知れない快感を生み出すのだ。
「あ、あ……! あぁぁぁ――ッ!!」
その人智を超えた快感は、あっという間に啓介を絶頂へと導いてしまった。
何秒も経たないうちに、緑の中に思いっきり精をブチ撒けてしまったのだ。
どくん、どく、どくん……
「ふふっ……」
緑はジェシアから授かった粘状の体で精を受け、静かに微笑む。
ペニスの脈動に愛おしささえ感じ――それを粘液で優しく揉みしだいた。
彼女の膣はぐっちゅぐっちゅと淫らに蠢き、咥え込んだペニスを激しくシェイクする。
「あ、あ……みどり、みどりぃ……」
啓介は弾かれたように腰を突き上げる――その時、亀頭先端にべっちゃりと粘液の塊が粘り着いた。
それはグニュグニュと蠢き、収縮して、亀頭に極上の快感をもたらす。
「あひ、ひぁぁぁぁぁぁぁ……!!」
あまりの心地よさに、立て続けに精を放ってしまう啓介。
自分の体でとろけてしまう啓介の姿を目の当たりにして、緑の怒りもようやく解けたようだ。
彼女は股間部の粘液を総動員し、咥え込んだ恋人のペニスを徹底的に愛し尽くす。
ぐちょぐちょ……ぐにゅぐにゅ……ぐちぃ。
じゅるり……じゅるじゅる、ずちゅずちゅ……ぐちゅり。
「あ、あひぁぁぁぁぁぁぁ――ッ!!」
締め付け、揉みしだき、擦り付け、舐め回し、温め、抱き締め――
股間でできる刺激を、全て啓介のペニスに体験させてあげた。
この肉体では、こういうことが出来るのだと――それを、分かって貰うために。
こんな風に、今までできなかったやり方で彼を愛することができるのだと。
「あぅぅぅっ!! あ、あがぁぁぁぁぁぁぁ――!!」
その度に啓介は歓喜の悲鳴を漏らし、快楽の証をドプドプと緑の中にプレゼントする。
緑は啓介と繋がり合い、愛し合い――そして、残酷なまでに精液を搾り取っていった。
「あ、あひぃぃぃ……」
啓介が緑の中で体験した射精の回数は、もはや数十回。
溜まっていた精液をドプドプと吐き尽くし、すでに空っぽの状態も近い。
「ん、ん、ん……」
それでも啓介に跨ったまま、じっくりと腰を上下左右に振り乱す緑。
彼女の熾烈な責めは続き、啓介をひたすらによがり狂わせる。
もはや誰が見ても、啓介が緑に全てを奪われ去るのは近かった。
「うふふ……」
「くすっ……」
啓介の両腕を封じていた二人の粘対女がドロドロと溶け出し、じっくりと彼の体を包み、混じり合う。
それは緑の下半身とも結合していき、啓介はドロドロの粘液にくるみこまれる形となった。
その状態でも緑の騎乗体勢は維持され、ひたすらに精液を吸い続ける。
ぐちゅり……じゅるじゅるじゅる……
ぐっちゅ、ぐっちゅ、ぐにゅぐにゅ……じゅるり……
「あぅ……吸い取られてる……」
キュウキュウとした締め付けに、精をドクドク漏らし――
啓介は、自分が受けている陵辱がどんなものか悟っていた。
この身から、精も生も根こそぎ吸い上げてしまうという責めだ。
緑は、全てを奪い去り、蹂躙して――そして、自分を取り込んでしまおうとしている。
「あ、あ……」
それが分かっていながら、恐怖どころか歓喜をもって、啓介は何度も何度も射精していた。
むしろ喜んで、生命そのものを緑に与えるかのように――
いつしかスライムが体全体を包み込んでいることなど、まるで気にならなかった。
じゅるり……ずちゅるずちゅる……
ぐちゅ、ぐちゅ……じゅるるるるるる……
「あひぃ……あ、あぁぁ……」
啓介の体を包んだスライムも、緑――そしてジェシアの一部。
それは、いよいよ啓介をじっくりと包み溶かしてきた。
体全体をくまなく揉みしだきながら、その細胞をじわじわと取り込んでいく――
体がドロドロと溶けていく感触には、至福に満ちた快楽が付随した。
じゅるり……ぬるぬる……じゅぷっ……
ぐちゅぐちゅ……じゅるっ。
「あぁぁぁ……みどりぃぃぃ……」
緑に包まれながら、溶けていく――それを自覚しながら、啓介は深い幸福を感じ取る。
自分も今から、溶かされていった周囲の男と同じ目に合う――それは分かっていた。
ドロドロに溶かされ、食べられてしまう――それでも、辛いとは思わない。
なぜなら、相手は緑なのだから。
ジェシアと一つになるということは、緑と一つになるということでもあったのだ。
ぐじゅ、ぐじゅ、ぐじゅ……
じゅるるるる……ぬちゅ、ぬちゅ……
「あぁぁぁぁぁぁ……」
緑に犯され、くるまれ、絡み合い、覆い包まれながら溶けていく――
その至福を味わいながら、啓介も緑と――そしてジェシアと一つになった。
「ぐうっ……! あ、あぁぁぁぁ……!」
「えへへへへっ……」
無邪気な顔で、ゆさゆさと腰を揺する少女ジェシア――
ぐっちゃぐっちゃと卑猥な音が響き、ペニスがぶちゅぶちゅと粘液の膣を撹拌する。
カリがずるずると擦れるような刺激で、ナギはあっという間にドプドプと精液を漏らしていた。
「あぅぅぅ……」
あれから五度も射精を強制され、もはや疲労で体に力が入らなくなっている。
ジェシアの中に放つたび、エネルギーが吸われていくような感覚だった。
「うふ、ふふふ……」
そして彼の頭部にももう一人の少女シェシアがのしかかり、陰部を押し付けているのだ。
その甘い芳香と肉棒への執拗な刺激で、ナギはすっかりとろけきっていた。
「ねぇ……」
「……うん」
ナギの頭部に座るジェシアと、腰に跨るジェシア――不意に二人は視線を交わし、頷き合う。
おもむろに二人はナギの上で抱き合い――その体がずむずむと溶け、一つに混ざり合った。
そして形成されたのは、最初に遭遇した時と同じく二十歳ほどのジェシアの姿。
ただしドレス姿ではなく、全裸のままでナギの上に跨っていた。
ペニスはジェシアの体から弾き出され、今は彼女の尻の下敷きとなっている。
「ふふふ……」
妖艶な笑みを浮かべながら、ナギを見下ろすジェシア。
彼の頭部は陰部の芳香から解放され、肉棒に与えられる刺激も一時的に緩み、ナギはゆっくりと思考力を取り戻しつつあった。
「な、何を……」
「ふふっ……」
一体、何をする気なのか――ジェシアはナギを見下ろしたまま、ひときわ淫らに笑う。
明らかに、その様子は異様。
このまま嫐り殺されることを覚悟したナギだったが――
急に、それよりも不吉な予感が彼を襲っていた。
自分はこれから、もっと恐ろしい狂宴に供されるかのような――
「ふふっ。あなたの精は素晴らしいわ……塵芥のような生命として吸うのが惜しいくらい」
ナギのペニスを尻の下に敷いたまま、自身の半透明の下腹部を撫で――ジェシアは、そう口にした。
この男は、ほんの一瞬だけながら自分を驚かせたのだ。
ここ二千年で、ジェシアが取り込んだ人間の命は数百万。そのうち、刃向かってきた男は数百人。
その中の誰一人として、ジェシアを追い詰めるどころか驚かせることさえできなかった。
しかしこの男は――ジェシアの一瞬の隙を突き、その身に刃を食らわせるという芸当を見せたのだ。
この二千年で、最大の不覚。
それをやってのけた男を、このまま生命の一つとして取り込んでしまうのは――あまりに惜しい。
褒賞を与えてやらねばなるまい。
ジェシアという高位の存在に手を出した代償を、思い知らさねばなるまい――
「ふふふっ……」
ジェシアの半透明の下腹あたりに、拳サイズの球体器官のようなものが浮かぶ。
イクラやカズノコのように、細かな粒で形成されたピンク色の不気味な球体――
それは、ドクドクと脈打っているようにも見えた。
思わずナギは、アメーバの中心に浮かぶ核を連想してしまう。
「ま、まさか……」
ひどく嫌な予感――それは具体的な思考で結実していき、ナギの血相が変わっていく。
吸うのが惜しい精なら、どう使うのか――そんなの、一つしかないではないか。
「これは私の卵巣。あなたはこれにたっぷりと精液をまぶし、これに受精させるの」
「……!!」
そう――それは、ジェシアの卵巣。
彼女はナギの上質な精液を吸っているうち、生命群として取り込むよりも優れた用途を思い付いたのだ。
それは、精液というものの本来の使用法――子種として用いることだった。
単純に己の一部として取り込んでしまうより、自らの卵と有性生殖を行う方が良いと判断したのである。
この男の精を用いれば、抜群に優れた娘達が産まれるはず。
そして、誕生した娘達とあらためて一つになる――そうした方が、より強い力が得られれるだろう。
「う、ぁぁ……や、やめろ……」
今から行われるであろう、恐ろしい狂宴にナギは戦慄していた。
化け物との生殖――それは人間にとって、大いなるタブーなのである。
「ふふっ……。気持ちよくしてあげるから、たっぷり子種を漏らしなさい……
そして、私を――ジェシア・アスタロトを孕ませるの。うふふ……あはははははっ……!」
下腹部にこぽこぽと浮かぶ卵巣を見せ付けながら、ジェシアは笑う。
もう逃れようのないことを悟らせ、じっくりと交尾を行う――それが、彼女のやり方だった。
「くそっ……! やめろぉ……!」
おぞましさに身を震わせながら、必死で抗うナギ。
しかし、衰弱した肉体ではじたばたと駄々っ子のように両腕を動かすのが精一杯。
ジェシアはそのまま両手を伸ばし、ナギの両腕を押さえつけた。
それはまさに、粘体女が男を組み敷く形。
このまま男を犯し、精を吐き出させ、その子種で孕む――
男の自尊心を完全に打ち砕く、生殖目的の逆レイプだった。
辱める――そう言った方がいいかもしれない。
「やめろ……、やめてくれぇ……!」
「心では抗っていても……体の方は、私に種付けをしたがっているわ」
ジェシアが少し腰を浮かせると、尻に敷かれていたペニスが一気に頭をもたげた。
彼女の言う通り――ナギの分身はたぎり、本能的に彼女の中へと入りたがっているのだ。
「や、やめ――」
「さぁ……子種を捧げなさい。ふふっ……」
そそり立っているペニスの先端を、自身の股間にあてがうと――ジェシアは、一気に腰を落としてきた。
そこに膣口の類は存在せず、肉棒はジェシアの股間部分にずぶずぶと沈み込む。
にゅくにゅく……ぬちぬち……
「あ、あぐ……! うぅぅ……!」
弾力に満ちたジェシアの中は、淫らな締め付けで射精をせがんできた。
おぞましさの一念でナギは射精をこらえようとするが――それも、無駄な抵抗に過ぎない。
人間の身でジェシアの内部を味わって、我慢できるはずがないのだ。
「あ、あうっ……! うぁぁ……」
「ふふ、あははは……」
自らの体の下で、粘液に包まれて悶える青年――
その苦悶の姿を眺めながら、ジェシアは内部をぐにょぐにょと蠕動させた。
その中に沈み込んでいるナギの肉棒は揉みしだかれ、粘道がうねっている感触を強制的に体験させられる。
「あ、あぁぁぁぁぁ……」
体の力が緩み、精が漏れ出てしまう――
少しでも気を抜けば、あの甘美な脈動が始まってしまう――
「ふふっ……」
必死でこらえようとするナギに、ジェシアは冷酷にもとどめを刺してきた。
下腹部の中にごぽごぽと浮いている球状の卵巣――それを、ゆっくりと下方に移動させたのだ。
そこにあったのは、ジェシアの中に埋まっているナギのペニス。
先走り液を垂らすその先端に、ちょん……と卵巣が触れてくる。
「う、あぁぁぁぁぁぁぁぁ――ッ!!」
その瞬間、ナギは悲鳴を上げていた。
敏感な亀頭部で感じたのは、ぬめりに満ちたザラザラ感。
それでいながら、温もりにも似た不思議な吸着感。
触れたものを、間違いなく射精に追い込む快感――
そんなものに亀頭先端が接触してしまえば、もはや射精は必然だった。
「う、うぁぁぁぁぁぁ……!!」
ドク、ドク、ドク……と、ジェシアの中で禁忌の精液が弾けてしまう。
それは、亀頭に軽く触れていた卵巣へとたっぷり降りかかった。
ピンクの球状器官と、自ら放った大量の白濁が淫らに絡み合っていく――
「あはっ……あはははは……! 出したわね、孕ませてしまったわね……」
「あ、あぁぁぁぁ……」
快楽に屈したナギは、己の精液で粘状淫魔が受精してしまうのを見なければならなかった。
……ごぼ。ごぼっ、ごぼぼっ……
精液に触れた卵巣の表面――その粒の三つほどが、徐々に膨らみ始める。
それらは粒のサイズから指先ほどの大きさ、そして拳大にまで肥大し――
ゆっくりと膨らむにつれ、徐々に人型を成していく。
それはジェシアの下腹内部で幼女の姿となり――
とぷん……と三体の妖女がジェシアの腹から溢れ出た。
「ん、んん……」
「ふにゃあ……」
地面に転がり、まるでむずがるように蠢く三体の幼女。
それは幼く、あどけない、非常に可愛い姿だった。
その肉体は、やはり半粘状だが――その三体が可愛ければ可愛いほど、ナギはおぞましさを感じざるを得ない。
こいつらは、自分と化け物との――
ぐにゅり……ぐにゅ、ぐにゅ……
「あ、あうぅぅぅぅぅ……」
そして、生殖の狂宴はまだ終わったわけではなかった。
ジェシアは腹の中をじっくりと蠢かせ、ナギのペニスを刺激し続ける。
亀頭付近で卵巣はふよふよと浮遊し、次の射精を待ち望んでいるのだ。
そして、ジェシアから生み出された三体の幼女はというと――
「んんん……」
「ふにゃ……?」
「……えへ」
三体は半粘状の体をずるずると引き摺りながら、ジェシアとナギの繋がっているところへ近寄っていった。
そして股間に顔をねじ込み、そこを覆っているスライムに割り込み――二人の交接部を、三体掛かりでぺろぺろと舐め始めたのである。
ペニスの根元や、陰嚢、アナル――そこに小さな舌が這い、垂れている精液を舐め取っていった。
「あぐぅぅ……」
ぺろぺろ、くちゅくちゅ……と敏感な部分に這い回る幼女達の舌。
その舌はもちろん、彼女達の体全体がヌルヌルの半粘状。
それが股間の周辺で蠢いているだけでも、心地よい感触をもたらしてきた。
その刺激も手伝い、さらに亀頭にねっとりと卵巣が密着し――もはや、耐え切れそうにない。
ナギの腰が震え、一気に射精感がこみ上げてきた。
じゅるじゅる、ぐちゅぐちゅぐちゅ……
れろれろ、ぴちゃぴちゃ……
「さあ、出しなさい。私の卵巣に、たっぷりと子種を放つのよ……」
「あ、あ、あぁぁぁぁぁぁ――!!」
亀頭に浴びせられる吸着感に促され、またも精液を迸らせてしまうナギ。
ドクドクと溢れた精液は卵にまとわりつき、幾つかの粒がまたもやむくむくと肥大していく。
さっきと同じように、今度は四個の受精卵が幼女の姿となり――
そしてジェシアの母胎から這い出すと、ナギの体に半粘状の全身をまとわりつかせ始めた。
「あはっ……あははっ……」
「ふにゃ……」
可愛らしい幼女達が、股間を中心にぷにぷにと群れ寄ってくる――
そのぬるぬるとした感触は、異様なまでの快感を生み出していた。
「んふふ……」
「えへっ……」
一方、ぴちゃぴちゃと股間の精液を舐め取っていた最初の三体――
彼女達は、いつの間にかさっきより成長しているようだ。
幼女だった彼女達は、今では少女と呼んでもいい外見となっている。
その舌の動きもねちっこさを増し、技巧的にナギの下半身を嫐ってきた。
ジェシアに跨がられて腰を振られ、結合部や太腿など下半身には七人の娘達が群れ寄り――
ぴちゃ……くちゅくちゅ……じゅるっ。
ぐっちゅ、じゅっく、ぐっちゅ、ぐっちゅ、ぐっちゅ……!
「や、やめろ……もう……、あぁぁぁぁぁぁ……!」
容赦なく続けられる交尾の快感に抗いきれず、ナギはまたもジェシアの中に精を放つ。
卵が精液を受ける度に分裂と増殖を始め、何体も何体も新たな娘を産み出すのだ。
そして誕生した幼女達はナギの体に群がり、密集し――精液や汗、唾液などの栄養分を舐め取ろうとする。
「ふふっ……もっとよ、もっと……あははは、あはっ……」
「うぁ、あぁぁぁぁぁぁ……」
ジェシアが腰を激しく揺すると、その粘状の下腹部全体がぷるぷると震えた。
内部はじゅるじゅると流動し、肉棒を巻き込んで激しくうねる。
その感触で射精し、またもドクドクと精液が迸る――
「えへっ……」
「ふにぃ……」
たくさんの娘達は、砂糖にたかる蟻のようにナギの体液を貪った。
すでに下半身はじゅるじゅるの女体で埋まり、上半身にものしかかっていく。
最初の方に産まれた娘は、すでにジェシアと寸分違わぬ姿にまで成長していた。
幼女から二十歳ぐらいまでのジェシアが、集団で寄ってたかってナギを責め続ける。
舌でレロレロと肌を舐め、ぬめった掌で撫で回し、膜状の髪でにゅるにゅるとくすぐり――
ぴちゃ、ぐちゅぐちゅ……れろっ。
ぐっぽぐっぽ……ぐちゅ、ぐちぃ……
ぐっちゅ、ぐっちゅ、ぐっちゅ、ぐっちぃ……!!
「あぐっ……! うぅぅぅぅぅ……!!」
幼いジェシア、少女のジェシア、若いジェシア、美しいジェシア――
何体ものジェシアにたかられ、埋もれ、ナギは何度も何度も精液を吸い取られていく。
全身を覆うヌメヌメ感に酔いながら、ありったけの精液をジェシアの腹に送り込む。
こうして、何体も何体も新たな娘が産まれていき――
いつしかナギの体は、半粘状の娘達にびっしりと覆い尽くされていた。
その数は、百に達していたかもしれない。
「あははは……」
「えへっ……」
「あ、あぅぅぅぅぅ……」
娘達の中で溺れるように、両手両足を振り乱すナギ。
それは娘の体に当たり、ぷにょん……とめり込んでしまう。
それが面白かったのか、娘達はキャッキャとはしゃぎながらまとわりつき――
ヌルヌルぷにゅぷにゅの体を擦り付け、粘状の快感をじっくり与えてくるのだ。
もはや全身、娘達の粘液を感じていないところはないほど。
じゅるじゅる、ぐちゅぐちゅと――咀嚼音にも似た音が響き、ナギは娘達の集団陵辱を受け続けた。
「あぅぅぅ……んんん……!」
さらに娘達はナギの口をもキスで塞ぎ、唾液を吸い上げてくる。
口内も舌で舐め回され、ヌルヌル感が這い回り――
耳の穴さえレロレロと舐め回され、顔面までもがしゃぶり尽くされる。
精液は、何度も何度もジェシアの腹の中に注ぎ込まれ――
彼女の下腹部に浮かんだ卵巣が全て受精して消失する頃には、二百を超える粘体娘達が産み出された。
「あぅぅぅ……」
陰惨な交尾が終わった頃には――もはやナギの精も根も尽き果て、されるがまま。
彼の体は二百を超える数の幼女や少女にのしかかられ、舐められ、覆い尽くされている。
じゅるじゅる、ぐちゃぐちゃと――無数の人型粘液が流動し、一人の男にたかっている有様。
それはまるで、生き餌に群れ寄る小型のアメーバ集団にも見えた。
じゅぐっ……れろり……れろれろ……
くにゅ、くにくに……にゅるん……
「ふふっ……これで交尾は終わり。気持ち良かった? 高みに辿り着けた?」
全ての卵の受精を終え、いかにも満足げにジェシアは微笑んだ――
といっても、ナギに彼女の満ち足りた顔は見えない。
娘達がナギの顔にも群れ寄り、じゅるじゅるベロベロと舐め回しているのだ。
そして――生殖の交尾が終わったということは、いよいよ最後のステップに進むことを意味していた。
「さぁ、一つになりましょう――」
彼のペニスを、下腹に収めたまま――ずぶずぶと、ジェシアの下半身がとろけ始める。
スライム状になって広がり始めたジェシアの体は、ナギに群がる娘達を巻き込みながら彼の体を覆っていき――
「えへへ……」
「ひとつになろ……」
そしてジェシアに包まれていく娘達は、母と一つになることを喜ぶように一体化していく。
幼女や少女達の体が、そしてジェシアの体が――ナギを覆い包んだまま、じゅるじゅるドロドロと溶け合う。
いや――溶けていくのは、ナギの体さえ例外ではなかった。
彼の体もゆっくりと溶かされ始め――そして、ジェシアと一つになろうとしていたのだ。
「ふふっ……とろけなさい、私の中で。そして一つになるの……あははははっ……」
「あ、あぅぅぅぅ……」
細胞レベルで、ゆっくりとジェシアに取り込まれていく恍惚感。
娘達はとろけきってスライムの一部となり、ジェシアの胸から下もドロドロと流動化し――
それらの粘体が混じり合って形成したのは、ナギの体を覆う膜――いや、繭。
その中でナギはねっとりと愛撫され、じっくりと溶かされていく。
まるで母胎の中にいるような心地よさに、精神までが生温くとろけていく――
「――おまえは……」
消え果てる意識の中で、一瞬だけ明瞭な疑問が浮かび上がった。
まるで消える寸前の蝋燭の火が、最後にひときわ揺らめくように。
「おまえは……なんなんだ……」
それだけを口にして――そして、ナギの精神もジェシアに屈服した。
彼の肉体――細胞もミトコンドリアもDNAもジェシアに支配され、取り込まれてしまう。
そして、とうとう精神さえもジェシアのものとなった。
こうして、餌場に残った最後の男――ナギも、ジェシアと一つになっていくのだ。
「――私は全て、そして全ては私」
その言葉は、ナギの残した質問に対する解答か。
もはや彼は、その答えを聞ける状態にない――当然ながら、それは了承している。
自身の中で溶け行くナギを見下ろし、ジェシアは独り言のように呟いたのだ。
さらに、彼女の肉体が震え――まるで下等生物が分裂するかのように、もう一人のジェシアが姿を見せた。
「――全ては一つ、そして一つは全て」
さらに、もう一体――いや、次々と分裂を続けるジェシア。
「私であり、全てであり、一つ。そう、私は……何?」
「私はジェシア、そして私は全て」
「私はジェシア、そして私は一つ」
「私は、人の規制観念になど存在しない。何でも己で計れると思うな、人の子よ」
ざわざわと数を増しながら、複数のジェシアはナギに言葉を投げ掛け続ける。
もはや彼に届いていないと――そう知りながら。
「実に面白い。終わりの瞬間にまで問いを探す。それこそが人――」
「人の強さは、その好奇心だけではない。集団の力――それもまた人間の強さ」
「いわば、人もまた群体に過ぎぬ。社会という群体を成した、それもまた一つの生命」
そうして増えたジェシアは、ゆっくりとナギの体に群がって何重にも包み込んでいく。
ぐちゅぐちゅ、ぐちゅち……ぐちぃ。
じゅっくじゅっく、じゅる……じゅるるるるるる……
無数の粘状女に埋もれ、揉みくちゃにされ――ジェシアの全身で、ナギの全身は貪られる。
「ああぁぁぁぁぁぁ……」
彼の精神は完全にジェシアに屈服し、恍惚のまま溶かされることを甘受している状態。
その肉体も精神も、半分以上はジェシアに溶けてしまっていた。
「ならば、私とお前達も同じ――群体か、個か。それは微かな違いに過ぎぬ」
「そして、群も個も同じ――お前という個人もまた、無数の細胞が成す集合体」
「それもまた群体――私は何かと問う人の子よ、ならばお前は何だ?」
「個か? 群か? 人間という群体の中の個か? 一つの意識を持った細胞群か?」
「個と群は虚ろ――互いに虚ろなのだ。お前も私も、お互いに」
「胡蝶の夢――それが現実。そして夢。確かなものなどありはしない」
「肉なる者は皆、草に等しい。永らえても、すべては野の花のようなもの」
「だから、私はジェシア。一つにして全て」
「ぁぁぁぁ……」
数十体ものジェシアがナギに覆い被さり、包み、溶け合い、貪り――
そして彼も、その細胞の一片まで残さずジェシアに取り込まれてしまった。
遊園地に残った最後の生存者も――こうして、ジェシアと一つになったのだ。
ぶちゅり。 ぶちゅ、ぶちゅぶちゅぶちゅ……
ナギを溶かしながら、無数に増えたジェシア――彼女達が、ゆっくりと結合していく。
ぐにゅりと溶け合い、絡み合い、互いが互いを貪り合うように――
「ジェシア。私はジェシア」
「全ては私。私は一つ――ジェシア」
「強き人の子よ、お前も私と一つになるがいい」
「ジェシアに――ジェシアの一部に」
「私は全て、私はジェシア。ふふっ……」
「私は一つ。私はジェシア。あはっ……、あははは……!」
「ふふふ、あははははははははははははははははは……!!」
ざわざわざわ……
じゅる……ずるずるずる……
重なり合い、溶け合い、乱れ合い、融合していくジェシア。
その変化は、この場のジェシアのみにはとどまらない。
遊園地全域を満たした大量のスライムまでもが、ざわざわと蠢き始めたのだ。
屋内にも屋外にも侵食していた粘液の波が、まるで引き潮のように引いていく。
無数の生命を呑み込み、取り込み、生も精も根こそぎ奪い尽くし――
そして、役割を終えたかのように引いていくのだ。
上空から見れば、大通りの一点を中心にスライムの海が縮まっていくように見えただろう。
「あはっ……! あは、あははははははっ……!!」
「私は何? 私は一人? それとも全て?」
「私は何?」
「私は何?」
「私は何?」
「私は――」
大通りに溢れ返ったスライムが、徐々に一箇所へと結集していく。
それは無数に絡み合うジェシアをも巻き込み、そして一つの形をなしていく。
この遊園地全体を覆っていた大量の粘液は、ほんの僅かな体積にまで縮み上がった。
もはや粘液の海も消え失せ、悶えていた人々もそこにはなく――
大通りの噴水前には、華奢な美女が静かに立っていたのである。
全ての生命が消えた遊園地内。異様なほどに静まり返った空間に、たった一人で。
「私は――ジェシア」
息を呑むほどに妖艶で、そして異様な雰囲気の美女は静かに呟いた。
最初にこの場に現れたのと同じ――ブルーの長髪にドレス、おとぎ話のシンデレラのような姿で。
しかしそのシンデレラは、童話の主役を務めるには余りにも禍々し過ぎた。
「私はジェシア・アスタロト。一人にして全て。終わりであり始まり。アルファにしてオメガ――」
ふわりとスカートを翻し、そしてその女は闇へと消えていった。
その華奢な身に、何百何千もの命を取り込んで――
ジェシアが去った後に残されたのは、すっかり無人と化した遊園地のみ。
こうして、聖夜の狂宴は終わりを告げたのである。
――それから数時間後、某国某所。
とあるビルの一室で、一人の女性が窓から聖夜の街を見下ろしていた。
派手なイルミネーション、ざわめく街並み、静謐とはほど遠い夜。
少し前に起きた惨劇を、聖夜を楽しむ大多数の人間は知るよしもない――
「……」
その女は、上から下まできっちりと軍服を身に纏っていた。
腕章に軍帽、特別にあつらえた女性用の将校服。
良識に反し、室内でさえ深く被った軍帽――そこからは、綺麗な金髪が覗いていた。
瞳はブルー、睫毛は長く、北欧系の整った顔立ち。
一見した人は、可憐な麗人だという感想を抱くだろう。
しかし彼女のことを知っている人間は、もっと別の渾名で彼女を呼んでいた。
『鉄の女』――当然、正面切ってそう呼ぶ命知らずなどいない。
彼女こそが、『化け物狩り』組織のトップである女性だった。
「……報告です、カーネル・ガブリエラ」
その部屋――長官執務室のドアが、静かにノックされた。
「……入れ」
「はっ……!」
若いオフィサーは素早く入室し、その部屋の主に対し敬礼する。
それに対する女性――カーネル・ガブリエラの返礼は、彼女らしくない緩慢なものだった。
それも、このような状況では仕方ない――そう察しながら、オフィサーは報告書を読み上げる。
「……チーム・ベータ、およびチーム・ガンマの全滅が確認されました」
「チーム・ベータの隊長……あの白薙真までが殺られたのか」
彼女にしては珍しく、外部からも見て分かる落胆の様子――
無理もない。白薙真は、組織でも三本の指に入るほどのエースなのだ。
「……はい、確かです。白薙真――コードネーム・ナギの生命信号は一時間前に断たれました」
「そうか……」
白薙真――あまりにも惜しい人材だ。
さらに、チーム・ベータとチーム・ガンマが壊滅――目も当てられない惨状である。
聖志林学園の事件で、チーム・アルファが事実上の壊滅。
そこで生存した須藤啓は、白薙真にも匹敵する手練れだったが、事件の後で組織を辞めた。
現在、実働戦力はチーム・デルタとチーム・イプシロンのみ。
しかもチーム・デルタの優秀な戦力だったサーラ・ハイゼンベルグは、少し前に組織を脱走している。
組織自体が壊滅の危機――とまで言っても、過言ではないだろう。
「一刻も早く、チームの再編を」
「はっ……」
そう命じたものの――彼女には、白薙真や須藤啓などといった優れた人材がそう簡単に集まるはずがないのは分かっていた。
「それと、もう一つ報告が――偵察部から、衛星写真が届いております。
解像度が低いので、確認はやや困難ですが……この噴水前に、この事件の中核とおぼしき女が捉えられています」
「ふむ……」
オフィサーから渡された大判プリントの写真に、カーネル・ガブリエラは視線を落とす。
粘液で埋まった大通り――噴水前にたたずんでいるのは、ドレス姿の禍々しい美女。
一目見て分かる、間違えようもない異様な女――
「――ノーブル・ロード」
カーネル・ガブリエラは、思わずそう呟いていた。
「は……?」
「いや――何でもない」
間違いない。こいつは女王七淫魔(ノーブル・ロード)の一人――堕粘姫ジェシア・アスタロト。
こいつが相手では、いかなる強者であれ人間が適うはずもなかったのだ。
「報告は以上です、カーネル・ガブリエラ――」
「ご苦労。とんだクリスマスだな」
「全くです……」
オフィサー自身も、落胆とショックを隠してはいない。
組織の誇るエースと主力部隊、そして八千人もの命を数時間にして失ったのだ。
『化け物狩り』組織の一員として、戸惑わないはずがなかった。
「犠牲者が安らかに眠れるよう……そして、散った戦士達がヴァルハラに迎えられるよう祈ろうではないか」
「はい……」
そうは言ったものの、それさえ叶わないことをカーネル・ガブリエラは知っていた。
ジェシアに取り込まれた以上は、もはや犠牲者も彼女と一つ。
その魂が、天国になど行けるはずもないのだから――
「確かに報告を受け取った。下がれ」
「はっ……」
オフィサーは退室しようとして――扉の前で、足を止めた。
「……我々人間は、強大な化け物に対して無力なのでしょうか」
「ああ。我々はまだ、このレベルの妖魔を滅ぼすことなどできない――」
独り言のようなオフィサーの問い掛けに対し、カーネル・ガブリエラは独り言のように応える。
「そうですか……では、失礼します」
「――まだ、今のうちはな」
そして彼が退室すると同時に、カーネル・ガブリエラはそう呟いたのだった。
「……」
オフィサーが退室した後も、彼女は窓脇で立ち尽くすのみ。
きらびやかな聖夜の街を見下ろしながら、深く静かに思案していた。
――ここ最近、淫魔の活動があまりに激しすぎる。
魔界からの流入数が増えているのは確かだが――しかし昨今の事件の頻発は、あまりにも異常だ。
その挙げ句に、女王七淫魔の出現――
「いったい、何が起きている……?」
いや、むしろ――これから、本格的に何かが起きるのか?
浮かれ騒ぐ聖夜の街を見下ろしながら、カーネル・ガブリエラは静かにたたずむのだった。
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